1
side.秋良
「………」
しとしと、雨が降っていた。
目を覚ました俺が身体を起こすと、くんっと裾を引かれた。
「起きたのか」
「ん……」
頭を撫でてやると、そいつは少しだけ悲しそうな顔を緩めた。
俺の恋人、理央。
理央は、雨が苦手だ。
「もう行っちゃうの、」
「や、今日は仕事休み。……それより、昨日の夜眠れなかっただろ。まだ寝とけ」
隈が出来てしまっている。
そっと親指で撫でると、理央は長いまつげをふせた。
「ぼくも、ごめんね……起こしちゃって」
理央は、ガキのときから、ひどい喘息を持っていた。
幼馴染みだった俺が社会人になって働く一方、学校も休みがちだった理央は、言うなれば無職。
けれど、それでも、構わなかった。
理央の傍にいることが、ガキの頃からの俺の生き甲斐だった。
俺が養うからと同棲を提案したのは、自然な流れだった。
迷惑をかける、と目を反らす理央の小さな手を、無理矢理取った。
見ていられなかった。
ボロボロな姿を。
理央を助けだしたかった。
前へ top 次へ