2
side.葵
後ろからついてきた足音に、僕は気づくことができずにいた。
少しだけ足を緩めた瞬間、ぐいっと腕をひかれた。
誰かに抱き込まれて、戸惑っている間には、光も届かないマンションの隙間に引きずり込まれた。
「なっ」
「静かにしろ」
ぞっとするような、ねっとりとした声だった。
うつ伏せに壁に押し付けられ、背中に見知らぬ相手の息を感じた。
なおも暴れようとする僕に、男はタオルのようなものを口に突っ込んできた。
「んぅっ、ん、んーっ」
「大人しくしてろ……キモチヨクしてやるから」
する、と前に手を伸ばされて、恐怖に萎えたモノを握られた。
びくっと身体が反応するのがわかった。
こわい、
こわい、
こわい。
身体中を滑る手が気持ち悪い。
「っう……」
ポケットが、震えた。
そっと、手を伸ばす。
気づかれないように。
指に、ボタンが、触れて、
「―――なにやってる」
「………!」
気づかれた。
驚いて、携帯を落としてしまった。
それを一瞥したのだろう、男は鼻で笑った。
「残念だったな」
手が、伸びる
前へ top 次へ