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side.葵
辺りはすっかり、暗くなっていた。
僕は荒く息をつきながら、走っていた。
大学の用事が、長引いてしまって。
早く帰らないと、朝倉さん、が、怒ってしまうから。
奴隷みたいな生活。
僕の意思は、どこにもない。
「……あぁ、もうっ」
信号につかまった。
気の短い朝倉さんを怒らせると、どうなるかわからない。
ほぼ毎日行われる行為が、もっと、ひどくなるかもしれない。
ただでさえ、ひどいのに。
(っ……)
信号を避けて、路地裏に入った。
街灯も少ない道。
あまり使いたくないのは、その暗さゆえに、犯罪も多いから。
僕も、その被害にあったことはある。
(どうせすぐだし……大丈夫、)
走っていればいいだろうと、その近道を使うことにした。
朝倉さんからだろう、ポケットの中で震え続ける携帯電話が、僕の背中を押した。
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