3
side.執事
「私の、声……ですか?」
返事はなく、代わりにばっと身体を離された。
「ごめっ……ごめんなさ、ごめんなさいごめんなさいっ」
「千夏さ、」
「ごめんなさいごめんなさい……っ」
慌てて離れ、ベッドの端まで逃げてしまった。
タオルを頭まで引き上げて、顔を隠してしまう。
縮こまって、びくびくと震えている姿は、なんとも痛々しくて。
(やっと、)
聞こえたのに。
手を伸ばしてくれたのに。
その声は、届いた、のに。
「ひぃっ……!」
頭を抱えて、胸に引き寄せた。
びくっと固まった身体を、何度も何度も撫でた。
「私の声が、聞きたかったのですか?」
「っひ……ごめ、なさ」
「私はあなたを傷付けません。痛め付けません」
届けばいい。
私に声が、届いたように。
私の声が、届けばいい。
「千夏様」
「っ……」
「千夏様、」
身体の力が、段々と抜けてきた。
「いいこですね」
「いい、こ」
「はい。とっても」
少しだけタオルを頭からはずすと、怯えた目が見えてきた。
怖がらせないように、にっこり笑う。
「いいこです。ですから、なにか望んでもいいのですよ」
少しでも、声が聞こえるように、そう問い掛けた。
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