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side.葵
「私、お邪魔しちゃって」
おんなのひとがそう言うと、朝倉さんがお前はいっつもそうだよな、と軽く笑った。
「べ、つに」
「え?」
僕は、何を、
「別に、そんなんじゃ、ないですから」
何を、言っている?
どうして、走ってる?
息を切らしてる?
こころが、痛んでる?
(どうして、)
知っていたはずなのに。
朝倉さんにとって僕は、遊び以外の何物でもなくて。
僕にとって朝倉さんは、恐れる対象以外の何物でもなくて。
どうして、涙が、出るの。
「おい」
くんっ、と後ろから腕を引かれた。
咄嗟に足を止めてしまったけれど、朝倉さんだと気付いて、じたばたと腕を振り回した。
そんな僕を封じながら、朝倉さんは廊下から中へと引きずり込んだ。
空き病室みたいだった。
「おい、」
「や、離してっ」
「聞けって」
壁に腕を押さえつけられて、真正面から目があった。
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