5
 

side.葵



気付いたら、ベッドに押し倒されていた。
そこにあるのは、いつもの表情の朝倉さんで。



「バレンタイン、ねぇ……俺のこと好きなわけ?」
「……!」



そうか。
プレゼントのことしか考えてなかったけど、もとあといえば、そういう日なんだ。



「ちっ、違っ……」
「ふぅん?」
「あれはただっ、あ、都築くん、都築くんがっ」
「………なに、あいつと会ってたの」



あ。
なんか、やばい空気。



「で、こそこそと計画でも練ってたわけか。二人っきりで」
「ちが、偶然、会っただけっ」
「どうだろうなぁ」



朝倉さんは鼻で笑った。
聞く耳もたずって、こういうことだ。



「あいつの入れ知恵か」
「だから、違う」
「都築なら知ってるもんな、俺の好物」



いつだって、信じてくれないんだ。
僕の言葉なんて、ちっとも。



「違うって、言ってるじゃないですかっ!」



悔しくて。
なんだか、悲しくて。



「僕、朝倉さんがマシュマロ好きだって、知ってた……都築く、は、あげたらって、言って、それだけっ……なにも、ない、のに」
「………なに泣いてんだよ」
「朝倉さっ……僕の話、なにも、聞いてくれなっ……ちがうって、言ってるのにぃ……」



なんで僕、泣いてんだろ。
嫌いなはずの朝倉さんに誤解されたって、全然構わないはずなのに。

なんでこんなに、悲しいんだろう。



「ちが、っ」
「わかった、わかったから」
「ばかぁ……」
「誰が馬鹿だ、あーくそ、泣くなって」



珍しく朝倉さんが、ぽんぽん、と背中を叩いてあやしてくれた。
僕はそれからも泣きじゃくっていて、あんまり覚えてはいないのだけど。

朝倉さんの腕の中は、あまいあまい、匂いがした。



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