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side.葵
『10時』
それだけの、素っ気ないメール。
ほぼ毎日くるこれは、僕が朝倉さんの家に行く時間。
逃げることなんてできない。
理由も術もない僕は、従うことしかできなかった。
(………どう、しよう)
ちら、と机の上の包みを見た。
別に、朝倉さんが好きとかじゃない。
嫌がらせされて、僕に恐怖を植え付けて。
怖い存在、なのに。
(なんで、思い出しちゃうんだ)
前、朝倉さんの妹さんが、お土産に持ってきていたもの。
それを食べているときの、朝倉さんの顔。
いつもと違う、柔らかいもので。
(期待してる、わけ、じゃない)
ただ、少しだけ。
少しだけ、だけど。
僕にも笑ってくれないかなって。
そう、思ってしまったんだ。
「……よし、」
小さな声で意気込んで、包みを鞄にいれた。
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