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side.葵
「葵サン、なんかするんですか」
この前薬局で、偶然都築くんに出会った。
薬局と言っても僕の両親が経営しているところで、その日体調を崩している綾くんの代わりに、薬を受け取りにきたところらしい。
「なにか、って」
「もーすぐじゃないですか」
都築くんはニヤニヤしながら、カウンターの上にある小さなカレンダーを指差した。
指されたさきは、14日。
……2月、14日。
「なっ」
「朝倉、楽しみにしてると思いますよ」
「なに言って……っていうか!別に、付き合ってなんか……」
そう。
僕と朝倉さんは、恋人なんて関係じゃない。
身体を重ねるだけの、薄っぺらいもの。
僕は、朝倉さんに弱味を握られて。
性欲処理になってるだけ。
「………ま、いいですけどね」
それじゃ、と都築くんは背を向けてしまった。
……何がいいんだ、なにが。
「あ」
「……?」
「朝倉、チョコレートよりもアレが喜ぶと思いますよ」
「っ都築くん!」
叫ぶと、逃げるように去っていった。
……アレ。
チョコレートより、好きなもの。
わかっちゃうのが、悔しい。
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