4
 

千夏が突然に、耳をふさいで泣き始めた。
名前を呼びながら肩を揺するけれど、声が聞こえていないようで。



「千夏っ、落ち着いて」
「やだ、や、おいて、かな、で」



か細い声が何度も、置いていかないで、一人にしないで、と呟いた。

俺は、ここにいるのに。
いつだって、千夏の側にいるのに。
この声は、届かないのだろうか。



「……置いていったりしないよ」



耳を塞ぐ小さな手を剥ぎ取って、俺の指と絡めた。
俯く顔に、自分のそれをあわせて、触れるだけのキスをした。



「そばにいる」



息が、届く距離。
もうひとつ、触れた。



「ここにいるよ」



ぽろ、と千夏の大きな目から涙がこぼれ落ちた。
手を握り返される。



「いな、くなっ……かと、おもった……」
「どうして?こんなに近くにいるのに」



くすぐるように、鼻と鼻をくっつけた。
両頬を手で包んで、額を合わせる。
千夏の伏せた長い睫毛に、涙の滴が乗っていた。
綺麗だと、思った。



「怖いことあっても、これだけは、信じて」
「………?」
「俺は絶対に、置いてかないよ」
「ほ、んと、に」
「本当に」
「きらっ……きらい、に」
「ならない」
「わか、な……かわる、かも、しれない」
「変わらない。千夏が不安なら、何度でも何回でも、言うよ」



疑うような眼差しと、すがりたそうな、眼差し。
揺れる大きな瞳は、俺だけを写してる。

何度でも、伝えよう。
不安が消えるまで。



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