2
最近、千夏は調子が悪い。
外見的な怪我とは違って、内面的な傷は時が経てばすんなり治るなんて、そんな甘いものじゃない。
その場の気分によっても変わってくる。
「うーん……」
安定剤と眠剤を飲んで、穏やかに寝息を立てる千夏の額を撫でた。
首に貼られたガーゼが痛々しい。
「………ゆ、じ…」
「……起きた?」
「………」
目を擦りながら、こく、と小さく頷いた。
「あ、あの、」
「うん?」
「……なん、でも……な……」
なんだろう。
「なぁに?言っていいんだよ?」
威圧感がないように、にっこり笑って言うけれど、千夏はふるふると首を横にふるだけだった。
それからしばらく沈黙が続いた。
「………ちな、」
かりかりと、手首を引っ掻く癖。
千夏の細い腕には、たくさんの傷が残っている。
身体中の他人から与えられた傷じゃない、自分でつけた傷。
千夏がこの傷を増やすときは、不安的なときだ。
そっと触れて怯えないか確かめて、ぎゅうっと抱き締めた。
「不安になった?」
「っ………」
引っ掻き傷は、止まらない。
「切り、た、い」
かりかり、かりかり。
俺にはもう、止められないのかもしれない。
前へ top 次へ