5
 

side.和志



叫びはしないものの、未だにかたかた震え続ける槙を抱き上げた。
一定のリズムで背中を優しく叩いてやると、段々と呼吸が落ち着いてくる。

薄い唇に自分のそれを軽く合わせて、虚ろな目をしたまま涙を流す槙を、じっと見つめた。



「か、ずしくん、」
「うん」
「和志、くん、」
「うん」



ぎゅっと、腕が背中に回ってきた。



「っ………たすけて……」



すがるように、必死にしがみつく細い指。
ふわふわの髪を撫でながら、ゆっくり紡がれる槙の話を、聞いた。

義理の兄に、襲われたことがあると。



「だれ、にも、言えなかっ……」
「………」



俺のせいで、思い出させてしまった。



「ごめんな……」
「かずし、くん」
「俺、口数少ないし、不器用だし、上手く言えないけど」



槙には、いっぱい伝えてあげよう。

親にも気付いてもらえず。
一人で、傷付いてきたから。



「好きだ」
「………っ」
「槙だけが、好き。俺が側にいる。ずっと」



何度も、いくつでも。
俺が、愛してあげるから。



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