3
side.槙
「か、ずし、くん……?」
無言のまま手を引かれて、やってきたのは和志くんの家。
お家には誰もいないのかしんとしていて、靴を脱いだらまた手を引かれた。
何度か来たことがある部屋につれていかれて、今。
「なに、和志くん、」
ベッドに、押し倒された。
手首は和志くんに押さえつけられてて、身動きが取れない。
明かりが逆光になって、和志くんがどんな顔してるのか、僕からは見えなかった。
「なんか、喋ってよっ……」
さっきから黙ってばっかで、不安になる。
僕がたまらずそう言うと、すっと顔が近付いた。
「むかつく」
やっと見えた和志くんの顔は、ひどく、冷えていて。
その目は、あの時見たものに、似ていた。
「ひっ………!」
首元に顔を埋められて、脇腹を冷たい手が這った。
思考が固まって、身体が動かなくなる。
頭のなかは、あの時の光景。
和志くんが重なっていく。
誰もいない家。
冷たい目。
誰にも愛されない、僕。
逃げ出せない。
義兄の強い力。
覆い被さる、陰。
「あっ、やあっ、やあぁぁっ!」
嫌だった。
触らないで。
誰にも言えないで。
ただ口を閉じた。
僕の、忘れていた過去。
箱が開くように、再生された。
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