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「ひっ―――!」
夕方のことだった。
うとうととし始めた千夏をソファに寝かせて、俺は晩ご飯の準備をしているときだった。
リビングのソファとキッチンは少し離れている。
けれど聞こえた、千夏の悲鳴。
「ちなっ!」
リビングに駆けつけると、千夏はソファから転げ落ちてしまっていて。
がくがくと震える身体を、必死に抱き締めた。
「あ、ぁ、」
細い身体が恐怖に震える。
今も焦点があっていない目は、恐怖を写していて。
昔の夢でもみたのだろう。
早く、気づいてやれれば。
「ちな、聞こえる?俺わかる?」
「あ、っ」
「ん、ゆっくりでいいよ」
ぽんぽん、と背中を叩きながら、荒い呼吸を落ち着かせる。
しゃくりあげて泣く千夏は、なかなか落ち着かなかったけれど。
「っゅ、じ」
「そう。もう怖くない」
「ゃ、こわ、ぃ」
ぼろぼろと泣きながら、千夏は俺にぎゅうぎゅう抱き付いてきた。
元々小さな身体が、さらに小さく見える。
声も舌っ足らずで、まるで、
「や、ぁ――……っ」
幼いこども、のような。
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