5
side.藍二
校門の前に、バイクがない。
そんな日々も続いて。
ほっとしてるはずなのに。
安心できるはずなのに。
どうして、こんなに、哀しいんだろう。
―――「もう、明日から会わない」
「っ……!」
どくどく、と心臓が波打つのがわかる。
部屋の中が真っ暗で、自分が今まで寝ていたことに気づく。
去っていく背中。
一人きりの、世界。
―――「ごめんね」
お母さん、どこにいくの。
一人に、しないで。
―――「あいつ、親に捨てられたんだって」
一人に、しないで。
「い、や……」
ひとりぼっちの小さいマンション。
捨てられなかった、母親の物たち。
父親がいた頃の、古い家族写真。
みんな、僕を置いていく。
「や、やだ、やだぁっ……」
暗闇の中で必死に携帯電話を手繰り寄せた。
友達もいない僕の電話帳、すぐにその名前は出てくる。
ねぇ、お願い。
僕を一人にしないで。
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