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side.葵
「………葵」
寝起きなのだろうか、無造作にシャツを着た朝倉さんが、立っていた。
目を合わせることができない。
「ごめ、ごめん、なさい」
「……昨夜、どこにいた」
「だ、大学の、実験が終わらなくて……研究室で、寝ちゃってて、それでっ……」
朝倉さんが僕をじっと見ているのがわかる。
俯いた僕の目線の先には服の裾を掴む手があって、かたかたと震えていた。
「……ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
「家には、帰ったか」
「ま、まだ……」
「……もしかして、覚えてないのか」
「え……?」
何か他に約束してた?
忘れてしまっている?
背筋が凍った。
「俺がどんだけ……っ」
切羽詰まったような声。
びくっ、と身体が震えるのがわかった。
「ひっ……!」
肩をぐっ、と掴まれて、半歩後ろに下がってしまう。
殴られる、と思った。
「……いや、いい」
けれどその衝撃はくることなく、すっと手を離された。
もう家に帰れ、と朝倉さんはドアを閉めてしまった。
……怒ってる。
けど、何か違う。
いつもだったら、無理矢理……したりするのに。
疲れているような、顔をしていた。
「あ、あやまら、なくちゃ」
でも、何を忘れているのか、思い出せない。
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