寝耳に水の恋慕 ――ごめんね、好きな人がいるの。 なんて便利な断り文句だろう。この一言だけで、本音にしろ建前にしろ「あなた自身に問題があるわけではないけれど、その想いには応えられません」の意を伝えることが出来るのだ。 相手方も傷付きはするかもしれないが、「好みじゃない」とか「あなたのここが嫌」とか言われるよりは余程良いはずだ。 ちなみにだが、私に好きな人なんてものはいない。よってこれは単なる建前であり、体のいい逃げ口上だ。ふられた彼にも、ふった私にも責任が及ばないように。今後に禍根を残さないために。 だって彼は私の刀剣男士で、私は彼の主なのだ。多少気まずくなるのはやむなしとは言え、変にこじれられては困る。出来る限り爽やかに、青春の痛みのような感じで終わってほしい。 その願いが届いたのか、彼は思いの外穏やかな表情で嘆息した。 ――わかっておりました、そう言われるだろうことは。 諦めの滲む顔で宙を見やるのは、粟田口の長兄、一期一振だ。 なんとなく、視線の先を追う。刀剣男士の居住区だ。弟たちがいるわけでもなく、辺りはしんとしている。何を見てんだろうと一期へ視線を戻したところで、再び一期もこちらを向く。 そしてやっぱり諦めを滲ませたまま、けれど私は全てわかってますよとでも言いたげな表情で、ぽつりと告げた。 「主の想い人は、大倶利伽羅殿でしょう」 「………………エッ!?」 はい、本編始まりまーす。 * 「いやいやいや、えっ!? はあっ!? いや違うけど!?」 ――と、あまりにも予想の外を行き過ぎていた発言に素でパニクったのも記憶に新しい。 私がどえらい勢いで否定するからか、一期はくすくすと笑って「そこまで恥ずかしがらなくとも、皆わかっております。わかっていて、その上で……主の口から直接、聞きたかったのです」とかなんとか言っていた。私の全力否定は、ただ図星を突かれたがゆえの照れ隠しにしか見えなかったようだ。 繰り返すが、私に好きな人なんざいない。 そりゃまあこちとらいい年した女なので、刀剣男士に囲まれてりゃあらやだイケメン! となる時はしょっちゅうあるし、しょうもないことでときめいて、やだ〜結婚する〜! とか思う時もあるけど、イコールラブとはならない。実際ガチで結婚したいとも思わない。 刀剣男士は刀剣男士。同僚であり部下であり、私の用いる武器であり、崇める神様でもある。私のとっての彼らはその程度の位置づけでしかなく、恋愛対象にはなり得なかった。 だから一期一振の告白も、断ったのだ。ぶっちゃけ一瞬やっべえ神隠しフラグ立っちゃうやつやん〜とか思ったけど、私の刀剣男士にそんな謀反まがいのことをするバカがいるとは思ってないし、まあ先のこと考えりゃ体よく断るしかないわな、との結論で。 ところがどっこい、この展開だ。 一期は一人でさっさか納得して去っていってしまった。思いっきり私がふった側なのに、なんかふられた側みたいな気分で私は立ち尽くすことになった。 「いや違うからね!? ていうかなんで大倶利伽羅!? ッハァ!??」と私が全力のシャウトを見せても、一期は恥ずかしがり屋の主ですなはっはっは、くらいのテンションだった。そりゃ立ち尽くすしかないだろう。 元よりふられるつもりで来てたもんだから、一期が多少の悲しさはあれどすっきりしてる風に見えるのはわかる。後を引かず縋ることもせず「主の恋路を応援しております」とか言えるのはめちゃくちゃ漢だ。そういうとこかっこいいと思うよ。 でも、でも、違うのだ。そもそもの一期が諦めるに至った理由からして違うのだ。 いやマジ、なんで大倶利伽羅? ナンデ? 大倶利伽羅ナンデ?? 困惑と混乱の極みに至った私は、刀剣男士たちの居住区にふらふらと向かった。最初に目に付いた部屋を挨拶もなしに開け、瞠目の表情で私を迎えた刀剣男士に開口一番問いかける。 「私の好きな人、誰かわかる?」 「は? 何いきなり。ていうかせめて入るよくらい言ってよ。大倶利伽羅でしょ」 「何でや工藤!!」 「僕は大和守安定だよ」 とりあえず問いに答えてくれたお礼だけは告げ、隣の部屋を再び無言で開ける。問いかける。「大倶利伽羅じゃねえの?」「大倶利伽羅だろ」「大倶利伽羅だって聞いたぞ」……どいつもこいつも、馬鹿のひとつ覚えよろしく「大倶利伽羅だ」としか答えてくれない。何でだ。 私が知らないだけで私って大倶利伽羅のこと好きだったのか? と思えてくるレベルだ。いやそんなはずはないんだがここまで来ると自分の記憶すら怪しくなってきた。 もしや私は、周囲にモロバレのくせして隠せてるつもり満々の片想いを長らく大倶利伽羅に向けていた女審神者(少女漫画出身)だったのでは……? そんであれでしょ……実は両片想いで周りがやたらやきもきするやつでしょ……? 帰ってきた離れの私室で一人現実逃避を始めるが、やっぱりどう考えてもそんなことはないのだ。そんなはずがないのだ。 だって私と大倶利伽羅、ろくに話したことがない。この本丸の近侍は初期刀の歌仙で常に固定されているから、大倶利伽羅が近侍になったこともない。何か劇的な出会いがあったわけでもなく、もちろん前世の因果もなく、顔がどちゃくそ好みだとかそういうわけでもない。 むしろ私は、大倶利伽羅がちょっとばかし苦手だった。私の好みはコミュ力高男だ。例えば獅子王、鶴丸、燭台切。やだ……太刀組のコミュ力、高すぎ……? 喋るタイプのコミュ障はまだいい。歌仙とか、山姥切とか。会話さえ出来ればなんとかなる。なんとかした。でも喋らないタイプのコミュ障はダメだ。しかも大倶利伽羅はコミュ障ってわけじゃなくてコミュニケーションシャットアウトマンだ。尚ダメだった。 どう扱えばいいもんかわからんまま、とりあえず戦ってはくれるようだから育てて、とっくの昔にカンストさせて、極修行にも放り出して、そっからの育成もしてるけど、でもやっぱり話した回数は下手すりゃ片手で足りる。 そんな大倶利伽羅相手に、どこでどう恋心を育めばいいのかまったくわからんし、周りがここまでお察しアンド歓迎ムードになるのかも意味がわからん。 もしやこれ大倶利伽羅にも知られてるんだろうか。だとしたら私、ちょっと、アレすぎやしないか。なんか嫌だ。告ってもねえのにふられるとか嫌すぎる。 ひとまずそこまでの一人会議を終え、私は立ち上がった。 これは、まず、大倶利伽羅と話をせねば。 * 大倶利伽羅には、気配断ちの術を仕込んだ式神を飛ばした。就寝時間である夜十一時過ぎ、離れに来るようにと手紙を持たせて。 これを無視られたらほぼ黒確定な気がする。私が大倶利伽羅を好きらしいことを大倶利伽羅が知っているのであれば、こんなん十中八九夜のお誘いだ。嫌すぎる。なんでこんな目に遭ってんだ私は。 いやワンチャン大倶利伽羅がノリ気で来る可能性もなくはないのか……それもそれで嫌だな……。「いやなんか周りがああは言ってたけど、私大倶利伽羅のこと好きでも何でもない……」とかさすがに口が裂けても言えない。私はやさしい審神者なので。かといってこの場で「好きな人がいるの……」つってもえっ俺じゃないの? ってなるだろうしな。いやなんで私は告られてもないのに大倶利伽羅をフってんだ。ごめん大倶利伽羅。 なんて考え込んでいるうちに、十一時を過ぎていた。あれあいつこねーな、と時計を睨み付けた時、障子の向こうから声をかけられる。 「……何の用だ」 状況だけ見るとスーパーこっちのセリフ……と思いつつ、障子を開けて周囲を確認し、大倶利伽羅に中に入るよう告げる。めちゃくちゃ渋られた。 私は内心でテンションを上げる。それでこそ大倶利伽羅だ! よかった! お前はまともだったんだな!! 「いいから入って。大倶利伽羅以外通れないように結界はりはしたけど、極短刀相手だと若干不安なんだから。文句は後できく」 チッと舌打ちが一つ響く。 どうやら夜のお誘い勘違いルートも、私が大倶利伽羅をふるルートも次元の彼方に消えてくれたようだ。舌打ち一つでそれらを理解出来るんだから舌打ちって便利! 私も今度使お! 大倶利伽羅を招き入れた執務室で二人、机を挟んで向かい合う。間にはそれぞれのお茶と低カロリーの茶菓子がおかれているものの、どちらも手を付けない。 いざ大倶利伽羅と向かい合ってみると、何をどう説明したもんかわからなくなったのだ。 だって「私って大倶利伽羅のこと好きだったらしいんだけど、どう思う?」って、意味わからなすぎる。私がそれを言われたらこいつ告白すんの下手くそかよって思う。どう思う? じゃねーよ。知らねえよ。 しかも相手があの大倶利伽羅だ。これがせめて歌仙であれば、私が言葉足らずでもある程度くみ取ってくれるから会話も成り立っただろうに……。でもその歌仙も「主は大倶利伽羅を好いているんだろう。隠しても無駄さ」みたいな感じだった。主の恋路を見守る健気な初期刀感を出すんじゃない。その主は幻想だ。 時計の長針が七の辺りを指そうとした頃、私はようやく口を開く。もう全身からめんどくせえの意がほとばしる勢いの、ため息交じりな声だった。 「なんか最近、大倶利伽羅と私について、他の子たちから聞いた?」 我ながら遠回しのようで遠回しじゃないような、変な訊き方になったと思う。けれどそうとしか問いかけようがなかった。 案の定何言ってんだコイツの顔をする大倶利伽羅に、ため息二つ目。姿勢も気にせず片膝を立てて頬杖をつき、オッサンがウイスキーでも飲むかのような持ち方で茶をすする。 「今日一期に告られたんだけど、好きな人がいるからってふったら、ああ大倶利伽羅かみたいな反応された。身に覚えは?」 「ハァ?」 「大倶利伽羅らしからぬ声が聞こえた気がするけどめちゃくちゃわかる」 死ぬ程意味わかんねえってツラで大倶利伽羅は「……は?」と改めて疑問符を浮かべた。 わかる。それな。以外の感想が出てこない。ハァ? とか言う大倶利伽羅、多分めちゃくちゃレアだろうに。普段話さないから知らんけど。 「誰が」 「私が?」 「誰を」 「大倶利伽羅を」 「何だって?」 「好きらしいよ。みんないわく」 やれやれとばかりに手元の湯飲みを振るう。残念ながらホットなので氷が揺れはしない。 「……何がどうしてそうなったんだ」 「マジそれな」 この様子を見る限り、大倶利伽羅も寝耳に水のようだ。ということは本当に、この謎の勘違いは私と大倶利伽羅を除いた周囲のみで起きていたらしい。 一応確認しとくべきかと「ちなみにそっちが私のこと好きとかはないよね?」と問いかければ、こいつ頭沸いてんのかみたいな顔を向けられた。「あんたはどうなんだ」と問い返されたので、お前の脳みそちゃんと皺ある? の顔を向けた。 それだけで通じ合えたのだから、存外気は合う方なのかもしれない。こんな場面で知りたくはない事実だった。 「ともかく、状況を説明しろ。……あんたのことだ、一通りは調べたんだろ」 「謎の信頼はありがたいけど、残念ながらこっちも予想外が過ぎたので。誰が言いだしたことかは知らないし、何をもってそういう判断に至ったのかも知らないよ。ただ、おそらく私たち以外、この本丸の全刀剣男子が、私は大倶利伽羅を好いている、っていう認識でいる。ついでにめちゃくちゃ歓迎ムード。応援するよ、応援してるよ、いつでも手助けしてあげるからね! そんな生ぬるい笑顔に見守られていた主に何か言いたいことある?」 「本当にどうしてそうなったんだ」 「それなオブそれな」 二人同時のため息。そろそろキャパを越えそうなのか、大倶利伽羅もぬるくなったお茶を半分ほど飲み下した。お茶と一緒に事態も飲み込めたらいいのにな。 しかしまあ、とりあえずの情報は共有出来たはずだ。現状を正確に理解した今、私たちがやるべきことは一つ。 解決策を探すことだ。出来れば探すだけじゃなくて見つけたい。この謎の勘違いに終止符を打ちたい。 私も大倶利伽羅も、互いを恋愛対象として見てなどいないのだ。その上でこの勘違いを放置したまま、例えば、いつか大倶利伽羅が万屋の娘さんと恋に落ちただとか、私が演練相手の男審神者と運命的な出会いをしてしまっただとか、そういうことになってみろ。 確実に、うちの本丸は大荒れする。 主というものがありながら! 大倶利伽羅がいながら! とか言いだす奴がいるのは目に見えているし、一期だって大倶利伽羅が相手であれば……と――まあこれはこれで意味わからんが。なんで大倶利伽羅なら良いんだ――身を引いたのだ。相手がどこの馬の骨とも知らぬ人間となれば、神隠しフラグが再建しかねない。 それは困る。大いに困る。我が本丸はこれでも平和に穏やかに過ごしてきたのだ。戦争中に平和もクソもねえだろっていうのは置いといて。戦以外の問題は起きなかった。 検非違使の出現で何振か折れかけたり、刀剣男士同士のちょっとしたいざこざが起きたり、研修に来た見習いが同田貫にマジ惚れしたりとかはあったけど、それらは全て穏やかに解決してきた。蛇足だが見習いと同田貫はまず交換日記から始めている。 そんな私の本丸を、こんな、しょうもなさすぎる上に意味のわからない勘違いで荒らすわけには……いかない……。 「というわけでひとまず浮かぶ限りの解決策を考えてきた。大倶利伽羅には意見を願いたいと思います」 「……」 どん! と机に置かれたのはフリップボードだ。 この用意周到さに一期であれば「準備がよいですな」と半笑いでツッコミを入れてくれただろうけれど、大倶利伽羅はドスルーである。知ってた。審神者、お前がそういう奴だって知ってた。だから絡んでこなかったんだ。 まあそこを気にしても進まない。意見を言えっつったんだから言いたくなればなんかしら言ってくれるだろう。多分。 「ひとつめ。仲悪い感じを演じる」 「……」 「デメリットとしては本丸の空気が悪くなる。多分燭台切とか太鼓鐘がめちゃくちゃ気を遣い始める。仲直りした方がいいよ? みたいな。メリットは好きじゃないってことを存分に知らしめることが出来るってとこかな」 「却下だ」 「なんでさ」 「面倒なことになる。確実に。その上状況を考えるとわざとらしい」 一理どころか百理くらいあった。まあ確かにこれはわざとらしすぎるわなとは私も思った。 フリップを放り、二枚目に移る。 「いっそ付「却下だ」早い」 食い気味どころかかぶせてきおったこいつ。どんだけ嫌なんだよ。私も苦肉の策だよ。 「話は最後まで聞こうね大倶利伽羅。いっそ付き合って、そんで都合の良いところで別れるんだよ。そうすればみんなも深くは突っ込めなくなる」 「一つ目の策の方がまだマシだ」 「なんでさ」 「……一度恋仲を演じてみろ。やれ婚儀はまだか、やれややこはまだかと騒がれるのが目に見えている」 「あっ……見えた……赤飯炊かれる未来が見えた……。どこまで進展したかを事細かく訊かれた上に主と大倶利伽羅のややこであれば〜とか妄想始める彼らが見えた……! それセクハラって言うんやぞ……!!」 そっとフリップを投げ捨てる。この策は無しだ。天地がひっくり返ってもやらない。 気を取り直して、それではと三枚目。 「報われないCPを演じる」 「……?」 首を傾げる、なんてかわいい仕草はせず、片眉を吊り上げて怪訝そうにフリップを睨む大倶利伽羅。お前ほんとそういうとこどうかと思うよ、と考えつつ、私は静かに語り始めた。 「愛し合うがゆえに結ばれぬことを選び、ただ相手の幸せのみを願う……そんな美しくも儚く、切ない恋模様が世の中にはあるんだよ。私たちは人と刀、相容れぬ存在……刀としての幸せを願うなら、人との恋愛などではなく意義ある刃生を、戦いを、勝利を。人としての幸せを願うのなら、付喪神相手ではなく同じ早さで年を取り、同じ歩幅で歩めるものとの穏やかな生を。そうやって身を引き合い、相手の幸せを想うがゆえに、もっとも欲しいものには手を伸ばさない。目を伏せ、背を向ける……。そういう感じのなんかいい話みたいに上手いことやれないかなと」 「要約しろ」 「各々「私じゃ大倶利伽羅を幸せに出来ない」「俺では主を幸せに出来ない」みたいなことをほのめかしつつ現状放置」 「却下」 「お前却下しかしねえな……」 大倶利伽羅が三枚目のフリップを抜き取り、放る。 「あんたが無意味な慰めと励ましを受けながらも最後まで審神者として立てるというなら、やればいい」 「ウッワ却下ですわ。そこまで演技派女優じゃない」 結局こっちが想い合ってる感を出せば、周りがあれやこれやといらん世話を焼いてくるってことだろう。善意しかないっていうのがまた困る。 かといって仲悪い感を演じてもやっぱり世話を焼かれるのだ。八方ふさがりってやつではなかろうか。 「はーあ。これでフリップ終わりでーす。どうすんのさ。なんか案浮かんだ?」 舌打ち混じりに首を振られる。しかし直後、はたと思いついたように大倶利伽羅の視線が私へ向けられた。 数秒無言で睨めつけられ、ほとんど反射で私も睨み返す。しばらくお互いガンを飛ばしあい、大倶利伽羅がため息をついた。何なんだよ。 「……好いてる奴は、いないのか」 「まさか大倶利伽羅と恋バナする日が来るとは……」 「真面目に答えろ」 頬杖をつき直し、目を伏せる。真面目に答えろと言われましても。答えは「いない」の一言で済む。 そもそも好きって何なんだ。相手を想って一喜一憂してれば好きなのか。相手の一挙手一投足が気になれば好きなのか。 それなら私は歴史修正主義者に恋してることになるけど、大丈夫か? あいつらが強くなればなるほど憂うし、こちらが勝れば勝るほど喜ばしい。歴史修正主義者の一挙手一投足が気になって夜もさほど眠れない。あいつらのちょっとした動きがこの戦の戦況を大きく変えるのだから。あれこれ私戦争に恋してない? やばい。 それとも、ヤりたいと思えば好きってことになるのか。だとすると大包平、膝丸、三日月、山伏辺りとは割とヤりたさあるけど……ほとんどこれ興味本位だしな……。だってここら辺の刀剣男士がどんなセックスすんのかってめちゃくちゃ気になるくない? 特に山伏。数珠丸とか村正とかも気になるけど、この二振はうちにいないし。 そんなこんなで、私は恋愛というものがよくわからないのだ。それなりに経験はあるけど、それも全部告られて付き合ってふる、の流れだったしなあ。 「仮に好きな人がマジでいたとして、だったら何なの?」 「そいつとくっつけばいい、と思っただけだ」 「すっげえ簡単に言うね……いやいないから意味ない会話だけど……」 恋愛ってものがわからないなりに、なんとなく理解していることもある。 本当に好き合っている同士がくっつくのは、奇跡みたいなものだってこと。もしかしたらそれは理想論にすぎなくて、世の中の恋人同士はみんな多かれ少なかれ妥協した上で付き合ってるのかもしれないけど。でもきっと、そんな奇跡みたいな恋人同士も、どこかにはいるのだ。 好きな人が自分を好きになる、っていうのは、とんでもない奇跡の上に成り立つ未来なんだ。 いやまあ知らんのだけど。多分そんな感じでしょ。 「なんにせよ……、っと、もうこんな時間か。大倶利伽羅、明日出陣でしょ。今日は諦めてここまでにしよう」 「ひとまず放置、でいいのか」 「今まで何もなかったんだから、いきなり何か起こる、ってこたないんじゃない? だから私も大倶利伽羅も寝耳に水だったんじゃん」 「……もし何か起きたら、どうするんだ」 とっくに日付が変わっていた時計を見やりつつ、大倶利伽羅はゆっくりと立ち上がる。 私は頬杖をついたままの姿勢で、ちょっぴり残ったお茶を飲み干した。 「まあ否定するしかないんじゃん? なあなあにしてたら悪ノリしてくる面子もいそうだし。でも過度に否定すると照れ隠しだと思われるから気を付けてね」 「……ハァ……」 「絵に描いたようなため息ついたな……」 なんやかんやと礼儀正しく執務室を後にする大倶利伽羅を見送り、大あくびをしながら洗面所へ向かう。お茶を飲んだから軽く歯磨きをして、そういや大倶利伽羅におもくそノーメイク見せたなと今更すぎることに気が付いてから、私室に上がった。 翌朝、私と大倶利伽羅は「大倶利伽羅が夜に離れに行ってた!」「つまり……?」「祝いだ!!」と盛大に炊かれた赤飯の山を前に、「やめろ!!!」と二人して絶叫することになる。 |