くだらないのは


「くっだらない」

重なり合い、互いが互いを守るような体勢で息絶えた男女を見て、くわえていた煙草を吐き捨てる。ほんっとくだらない。お前は逃げろ!嫌よあなたから離れたくない!はいはい勝手にやれば?何であたしがこんな安っちぃラブストーリー見せられなきゃいけないわけ?ほんっと不愉快。ボスもわざわざあたしにこんなカスい任務言い渡すとかまじ勘弁して欲しいんだけど喧嘩売ってんのかあの枝眉。

「あーうっざ」

2本目の煙草に火をつけて、煙と一緒に吐き出した悪態に返事をしてきたのはカエルを被ったおチビで。

「今日も機嫌悪いですねー」
「うっさいおチビ」
「そう呼ぶのやめてもらえますー?」

チビをチビと呼んで何が悪いのか。フランの言葉には返事をせずに煙を吐くとフランはあからさまに嫌そうな顔をした。けどいつものことだから気にしない。

「帰るよ、おチビ」
「…はいはーい」

歩き出したあたしの後ろについて歩くフランの、更に後ろにある2つの死体にちらりと目をやる。女を庇い息絶えた男。ほんとに陳腐なラブストーリー。くだらなすぎて吐き気がする。そんな自分と陳腐な2人を嘲笑うように鼻を鳴らせば、フランがさっきのあたしの視線を追うように死体へと視線を向けた。そして、心底バカにしたように鼻で笑う。

「バカですよねー。男ほっといてさっさと逃げれば女は助かったかもしれないのにー」

ように、じゃなくて本当にバカにしていた。まったくもってその通りだと軽く笑う。今回の標的はあの男ただ1人。他は逃げようがどうしようがなんら関係なく、邪魔さえしないのなら殺す必要は無かった。ほんとにバカな女だ。何よりも優先すべきは自分の命だろうに。くっだらない。

「やっぱ恋愛なんか邪魔なだけですねー、愛した人を守る為にーなんて馬鹿げてますよー」
「同感」

あの男も裏の世界に身を置いていながら色恋沙汰に手を出すなんて、ほんっと、愚の骨頂。この世界で恋愛になんの価値があるというのだろう。たまに性欲処理する相手がいれば充分だろう。寂しい夜でもあるなら女でも男でも誰かを買えばいい。結婚だってこんなとこ、政略結婚で充分だろうし。むしろなんの関係もないヤツと結婚した方が縛られなくてずっと気が楽だと思うんだけど。…表の世界ならともかく、あたし達の住む世界で色恋沙汰なんて、不必要な感情だ。

「おチビはそこら辺ちゃーんとわかってんのね。優秀優秀」
「なんかバカにしてませんー?」
「気のせいじゃね?」
「腑に落ちないですー」

恋愛なんてくだらなくてあたしたちが生きてく上ではまったくもって不必要。その考えはあたしの職場では当たり前のことだし、あたしも当然だと思う。恋愛なんてしがらみに捕らわれて命を落とすなんて以ての外。

「ほんっと…世の中バカばっか」
「ほんっとそうですねー」

あたしがそのバカの内の1人になるなんて、堪えられないわ。

フランと2人して鼻で笑ったあと、あたしは、煙草を投げ捨てた。


(くだらないのは、どっち?)
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