春はあげぽよ


※謎時空・全員酔ってる・寂雷ほぼ不在・キャラの様子がおかしい・どれが誰かは頑張って察してください


何故かシブヤとシンジュクの代表メンバーが揃って我が家で宅飲みをしている。
台所に並び立ちカクテル作りに勤しむ乱数とホストモード一二三、既にガチ酔いで我が家のウィッグにしどろもどろながらも口説いている独歩、空き缶でタワーを作っている帝統に、「柿の種の原材料は本当に柿の種子なんですよ」と空言を抜かす幻太郎。えっ寂雷? 仕事です。お医者様は忙しいね。
私は一二三に作ってもらったカクテルをソファで優雅に飲みながら、ファッション誌を眺めている。すっかり深夜帯となったテレビでは、アイドルだかグラドルだかが季節外れの水着姿で何やら盛り上がっていた。

「……春はスカート」

雑誌のページをめくり、ぽつりと呟く。一瞬静まりかえった我が家で、一番に反応したのは幻太郎だった。

「――やうやう薄くなりゆく足元、上腿少し覗きて、パンプスにて立ちたる女子の細き曲線彩る裾が、たなびきたる」
「フリからのアンサー完璧すぎじゃん……さすが幻太郎、握手しよう」
「恐悦至極。しかし麻呂はスカートよりワンピースの方が好ましいでおじゃるよ」
「わかる〜、春先女子のシャツワンピ最高」

そんな思いつきの流れが、全ての発端だった。
横で帝統が「わかるわかる、スカートから見える生足ってえろいよな」と頷いているが、やはりお前はまだ二十歳だ。生足よりストッキング履いてる方がえろいんだよ。異論は認めない。

「夏は浴衣」
「日中はさらなり、宵もなほ、薄布に秘された肢体に期待の多くが飛びちがひたる。素足を飾るネイルアートもをかし。舞う金魚がごとき姿もをかし」
「あ〜わかる〜! 別にフットネイルしてなくてもいいんだけどね、もちろんそれも大好きだけどね! 素足出すから気合い入れて浴衣の柄に合わせたネイルしてんのむちゃんこかわいいよね〜!」
「いいよなあ浴衣、外で脱がしたくなるよな〜!」
「乱れた浴衣もまたをかし……」

台所から戻ってきた乱数と一二三が、「ねーねー何の話ー?」「随分と盛り上がっているようだね、独歩くん以外」と話に混ざってくる。
一二三によって、ウィッグを口説いていた独歩も現実に帰ってきたようだ。

「春夏秋冬の女の子ファッションなにがかわいいかバナシ」
「オネーサンは何を着ててもかわいいよっ! 着ぐるみでもかわいい!」
「そうですよレディ、貴女の笑顔こそが最も素晴らしい」
「今そういう話してないんだわごめんね。女好きとホストは黙ってて」

ていうか着ぐるみって顔隠れてるじゃん。もはやかわいいのはオネーサンじゃなくて着ぐるみじゃん。

「はいじゃあ次秋。秋は?」

はいどうぞ、とウィッグをちらちら見やる独歩に掌を向ける。えっ俺? とばかりに目を瞬かせたあと、おろおろうろうろ視線を彷徨わせて、ちらと私のファッション誌に目を落とした。

「え、えと、秋……秋――は、カーディガン……? 昼は肩掛け、日が落ちたるころに羽織り、釦に閉じられる胸元さへあはれなり……。まいて長き袖に隠されたる指先がかすかに見ゆるは……、いとをかし。日入り果てて、凩に震える二十デニールなど、はた言ふべきにあらず」
「親友の思わぬ性癖を知ってしまった」
「二十デニール出してくるとかリーマンわかってんな! 萌え袖俺も好きだわ」
「小生は2wayで後ろにボタンのついているカーディガンが好きですねえ、チラ見えする肩甲骨などはた言ふべきにあらず……」
「オドオドしてた割にクオリティ高くて笑う。萌え袖のあざとさはやっぱり抗えないよね〜。ちなみに私は三十デニールが好き」

うんうんと頷き合ったところで、乱数が「じゃあ冬のオネーサンはなあに?」と今度こそ話に混ざってきた。
一二三は「そっか……二十デニールか……」と遠い目をしている。遠い目してるホスト初めて見た。独歩はそんな親友に気付いた様子もなく、何でか満足げにストゼロを煽っている。

「そりゃ冬はニットでしょ。冬はニット。オフタートルネックは言ふべきにもあらず、鎖骨覗くVネックも、またケーブルニットのほっこり感、リブニットの色気、シャギーニットの愛らしさもいとつきづきし」
「マフラーを巻きて、ふわりとゆるぶマフラーしまい髪もまたあはれなり」
「ハイネック、タートルネックに合わさるマフラーは襟元崩れがちになりてわろし」
「すげー! コンビネーション完璧だなお前ら! 俺もニット大好き!」
「私シブヤディビジョンじゃないからな、君も頑張ってよ帝統」
「俺コテンとか覚える気ねーもん、春はあげぽよしか覚えてねえ」
「あけぼのですよ帝統」
「高卒が一番最近の男なのに……」

帝統を小突いていたところで、ガタン、と静かな物音が響く。顔をあげれば、ストゼロ片手に独歩が立ち上がっていた。
一二三はまだ「二十デニールかあ……」状態である。親友のマニアックさについていけてないらしい。まあ一二三の趣味ってストレートっぽそうだもんな。

「――ッ冬はダッフルコートだろ!!」

突然のシャウトであった。

「ダッフル……」
「ああうん、ダッフルコートね、うん」
「へえ……ダッフルですか……ふうん……」
「……ダッフルコートってもしかして? トレンドじゃないのかよおぉ!!」
「もしかしなくてもそうだよ独歩くん」
「俺はダッフルコートも嫌いじゃねえよリーマン……」

帰ってきた一二三と、もはや全力同意マンと化した帝統がそっと独歩の肩を叩く。

横で「コートなら最近ってなに? MA−1はもう微妙? ノーカラーは無難だよね」「トレンチも今年は微妙かもねー、まあベターだからダサくはないけど」「チェスターコート、ファーかボアアウターはトレンドだと思いますよ。ビッグシルエットは愛らしさが際立って良いでござるなあ」「そういやモッズコート着てる子最近見ない気がする、あれもしかして廃れた?」「根強い人気はあると思うよー」なんて話し続けていれば、また独歩がシャウトする。

「女のファッションは名称がわからねえんだよ!!」
「男も大概だけどね」

そもそもォ! と酔っ払い独歩は止まらない。一二三と帝統は止めることを諦めたみたいだ。

「夏は水着だろ!?」
「あーわかる、やっぱ水着は重要だよな!」
「日に照らされし白浜がごとき谷間いとあはれなりってか」
「オニーサン結構がっつりスケベだよねー!」
「水着か……太陽の下、太陽に劣らぬ笑顔ではしゃぐ子猫ちゃんはさぞ輝いて見えるんだろうね」
「だから今そういう話はしてないんだわ」
「水着に心惹かれるなど童貞の証でござるよ〜観音坂氏〜。夏は浴衣です」
「童貞今関係ねえし夏はどう考えても水着だろ、夏しか着れねえんだぞ水着」

雲行きが怪しくなってきた。幻太郎がすっと音もなく立ち上がる。

「恥じらいもなく谷間腹脚を晒す女性になんの楽しさがあると言うんで? 清楚な浴衣に包まれた恥じらいこそ男の下心を滾らせるというものでしょう。着ているものを一枚一枚丁寧に剥いていくのが楽しいんですよ!」
「着エロが上級者だと思ってんじゃねえぞ!? 恥じらい恥じらい言うんなら水着こそ最後に残った恥じらいだろ! 紐一本引っ張りゃすぐ脱げるギリギリの恥ずかしさを見ない振りしてはしゃぐ女の子かわいいだろうがよ!!」

「リーマン明日首吊るんじゃね?」「僕がしっかり見張っておくよ」とひそひそする帝統と一二三の合間を縫って、乱数が幻太郎と独歩の間に立つ。
「もお〜! 二人とも他人の趣味をディスるなんて大人げないよ〜!」ときゅるんきゅるんしながら二人の肩を叩き、その後ぼそりと何事か呟いたかと思えば、幻太郎も独歩も悲しそうな顔で静止した。多分非童貞の御言葉を賜ってしまったんだと思う、地声で。

私は私でスマホを取りだし、ある番号に電話をかける。運良く繋がった人は、どうしたんだい? と柔らかな声で応えた。

「寂雷さんは女の子のどんな格好が好き?」
「ああ……今日は飲み会だと言っていたね。参加できなくてすまない、次は私も混ぜてくれると嬉しいよ。それで、えっと……?」
「女の子の格好、ファッション。水着とか制服とかでもいいよ」
「女性の服には疎くてね……。そうだね、ううん……」

数秒の間をおいて、「着物が好きかな、晴れ着姿の女性は見ているこちらの心も晴れやかになっていいよね」と続けられたので、さすがお医者様は低俗な私たちとは違うぜと思った。感想。
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