ひとりぼっちの追従


わたしと元就くんは、お家が隣で、お父さんとお母さん達も仲が良くて、だからわたしが生まれた時からずっと一緒にいた。
二つ年上の元就くんは、いっつも「貴様は我がいなければ何も出来まい」って言う。
その通りに、わたしは一人じゃ何も出来ない人間で、はじめてのおつかいも迷子になって出来なかったし、友だちも作れないし、勉強もうまくいかないし、鈍くさいし、ただボールを投げることですらまともに出来なかった。
元就くんはいつもそんなわたしを、溜息をつきながら助けてくれた。

わたしのすることは、だいたいいつも元就くんが決める。
受験する高校も、今日食べるお昼ご飯も、どこにおでかけするのかも、何を着るのかも、全部。
勉強もいつも元就くんが教えてくれて、運動のしかたも、やっぱり元就くんが教えてくれた。
元就くんの言葉通り、本当にわたしは一人じゃ、元就くんがいなきゃ、何も出来ない人間だった。

だけどわたしと元就くんは二つ年が離れているから、わたしが中学に入学しても元就くんは一年間経つといなくなっちゃうし、高校に入学してもやっぱり一年後には元就くんはいなくなった。
元就くんがいなきゃ何も出来ないわたしはどう生活すればいいのかがわからなくなって、毎日、元就くんに会いに行っていた。
元就くんはやっぱりそんなわたしに溜息をつきながら、こうすればいい、ああすればいいと教えてくれた。

こんなわたしを見て、「毛利の人形のようだな」って怖い顔で言ってくる人もいれば、「あなたは一人じゃ何も出来ない人ではない」って優しい顔で言ってくる人もいる。
だけどそれを元就くんに伝えたら、元就くんはそんなの無視してればいいって言ったから、わたしはその人達を無視することにした。

元就くんはとてもすごい人。
頭も良くて、運動も出来て、たくさんの人に慕われてて、自分一人だけで何でも出来ちゃう人。
そんな元就くんの言う通りにしていれば、わたしも成績が上がったし、ボールもちゃんと投げられるようになったし、今ではお母さんがいなくても元就くんとお買い物に行けるようになったから、わたしは元就くんの言うことをきく。

わたしは元就くんと違って一人じゃ何も出来ないから、元就くんのそばにいなきゃ、生きていけない。

元就くんを悪く言う人も、わたしに近付いてくる人も、みんな無視しちゃえばいいって元就くんは言う。
だからわたしは、元就くんのいない学校ではいつもひとりぼっち。
だけど、勉強のコツとか、先生やクラスの人との接し方とか、時間の潰し方とかは、全部元就くんが教えてくれているから怖くない。

元就くんのいない学校で、わたしは一人で机を運べるようになったし、お掃除も上手になったし、この前は家庭科の授業でオムライスの作り方も覚えた。
綺麗にまけたね、って先生が褒めてくれたのが嬉しかったから、元就くんにも食べてもらおうと家に帰ってからオムライスを作った。
一人で料理をするのは初めてだったけど、不安だったけど、怖かったけど、元就くんにも褒めてもらいたかったから。

だけど。





元就くんは知らない。

わたしが一人で買い物に行けることも。一人で料理が出来るようになったことも。一人で眠れるようになったことも。雷の夜に一人でも大丈夫なことも。
元就くんが教えてくれていない範囲の勉強を自分で進められることも。ボールを投げるのは下手だけど、バドミントンなら得意なことも。実は優しいお友達が出来たことも。

全部、全部、知らない。

元就くんにとってわたしは「一人じゃ何も出来ない子」だから、わたしは元就くんの前では「元就くんがいないと生きていけない子」になる。
そうしたら元就くんは、ただ静かに溜息をつきながら、わたしにいろんなことを教えてくれる人になるから。


元就くんは知らない。

わたしが、わたしは元就くんがいなくても生きていける子だ、って知っていることを。
でもそれは、知らないままの方がいいよね?
だって、独りぼっちじゃ生きていけないのは、元就くんの方だもの。
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