紫原君へ




ん、あー、本当に来たんだ。
インハイあるから俺がこっち来てて良かったね〜。
まあ座れば?
って、言う前に座ってっし…。

んで、何だっけ。
ああー、あの子の事ね。

うん、優しかったし、作ってくれるお菓子全部おいしーし、赤ちんの次くらいに好きだったよー。
好きって言っても、そういう好きじゃないけど。
なんか姉ちゃんみたいじゃん?
無駄にお節介なとこは鬱陶しかったけど。
…なにその顔、俺謝んないからね。


でも本当に、美味しかったんだ。
いろいろ作ってくれた。

クッキー、マドレーヌ、プリン、チーズケーキ。
甘ったるいの飽きたって言ったら、ポテチとかも作ってくれたし。
暑い〜って言ってたらゼリーとか、水ようかんとか。
あの寒天は、きらきらしてて、綺麗だったなあ。

また、食べたいんだ。
俺が食べたいって言ってんのに、もう作ってくんないなんてさ。
いじわるだよね。


まだ作ってもらってない物もあんのに。

俺に、いっぱいお菓子作ってくれるって。
市販のお菓子ばっか食べてたら体に悪いって、親みたいなこと言ったのは、そっちなのに。

約束破るのはいけないって言ってたんだよ。
なのにそっちは勝手に約束破ってさ、怒らせてもくんないし。
俺、ちょっと文句言って、ごめんって言ってくれて、お菓子くれたら機嫌なおすのに。

…何で笑うの、ヒネリ潰すよ?


ずるいよ、ずるい。
俺ばっか我慢させて、いじわるだ。

絶対、俺、ずっと許さないんだから。
ごめんって言ってくれるまで、ぜったい。


別に泣いてねーし。
こっち見んな。


…は、手紙?
なに、それにごめんとでも書いてあんの?
だとしても俺、許さないよ。
直接言ってくれるまで、許さねーんだから。


 「素直に生きてください」


何でだし、と拗ねたような表情で、瞳を潤ませていた紫原さんは目元をごしごしとこすった。
素直じゃない人だなと思う。
だけどそうやって、虚勢をはってないと。姉に怒りを向けていないと。
……やりきれないんだろう。

俺だって、出来るものならそうしていたい。

こんな茹だるような暑さの中、ロクに会った事もないような人たちのとこに、あの姉のためだけに奔走しているんだ。
一個くらい文句を言っても、バチは当たらないだろう。
そう思いはしても、結局俺は何も言えないんだが。

手紙を握りしめながら未だにぶつぶつと、子供のだだのような姉への文句を言い連ねている紫原さんをどこか羨ましげに眺め、腰を上げる。
紫原さんは何も言わず、俺に目線を向けることもなく。


姉に懐き、自身の姉のように思っていた人から見た、姉の姿。
それはきっと、俺が思い描くものより、優しいのだろうと思った。
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