2 壊すなら、今だと思った。 こんなチャンスはもう二度と来ない。それならば、今。 ――… 困ったような表情で、頭を下げている女がいた。 静かな学校の屋上。 そこで、2つの声が響いている。 「俺、みょうじさんの事が――」 「…ごめんなさい、私…」 断片的にしか聞き取れなかったが、告白されてることぐらいはわかった。 誰にでも優しくて、見た目も良い女だ。勘違いなんていくらでもされるだろう。 俺にだってよくあることだ。だが、男の俺より女のあいつの方がそういう経験は多いんじゃないかと、少し思う。 「花宮先輩と、付き合ってんの?」 不意に聞こえてきた自分の名前に、ぴくりと耳をそばだてる。 なまえがどう答えるのか、純粋に気になった。 しかしなまえはさっきと同じように、困ったような笑みを浮かべて。 「そんな、花宮先輩みたいな人、私にはもったいないです」 どこが沸点だったのか、自分でもわからなかった。 俺は屋上の扉を開け、2人の前に姿を現す。「何してんだ」声をかければ、男は慌てたように屋上から姿を消した。嫉妬と焦燥が混ざったような視線を向けられ、軽く鼻で笑う。 なまえは俺が突然現れたことに驚いたのか、ほんのりと頬を紅潮させ、目を丸くさせていた。 「花宮先輩、今の、見てたんですか」 恥ずかしそうに目を伏せる。長い睫毛が目に影を落とした。 「たまたま、な」 本当は男と2人、屋上へと向かうなまえを見かけてついてきたのだが。そんなことはどうでもいい。 俺の返答になまえは小さく笑った。 「ごめんなさい、恥ずかしいところ、見られちゃいましたね」 「…いや、俺こそごめんな」 さらさらとした髪の毛に触れて、申し訳なさそうに微笑んでみせる。 なまえの頬は更に赤みを増していく。 美味しそうだと、思うと同時に。 このりんごみてえな顔が真っ青に染まるところを、見たくなった。 今、俺が手を出したら。この場にこいつを押し倒しでもすれば、こいつは。 「花宮先輩は、本当に優しいですね」 春先に咲く、花のような笑顔だった。 細い腕をとり、屋上の影になっている場所へと無理矢理つれていく。 突然のことに驚いたらしい、なまえは慌てたように俺の名前を呼んだ。返事はしない。 そのまま壁になまえを押しつけ、両手は暴れられないよう自分のそれで押さえた。 「は、なみや、先輩…?」 今までこういった経験は無かったんだろうか。 どうせ処女だろうといった考えもあった。こんなに清らかな女を、誰が穢せるというのか。 驚きと恐怖の入り交じった表情。目尻には涙が浮かんでいる。 もう一度呼んだ俺の名前は、か細い声で、わずかに震えていた。 ぞくり、背筋になにかが走る。 もう少し、あと少しだ。 ここでこのまま無理矢理犯してしまえば、こいつは壊れる。 儚い花のようでも、壊れればただの散って踏みつけられた花びらだ。 清らかな天使のようでも、壊れてしまえば堕ちた人間になる。 誰にでも優しい、聖母のようなお前は、俺の手によってただの人間になるんだ。 こんなにも楽しいことが、他にあるか。 「先輩、は、」 「優しい優しい花宮先輩は、こんな事しねえってか?なわけねぇだろバァカ。俺だって男なんだよ」 こうしたくて、お前に近付いたんだ。 そう告げた瞬間の、なまえの顔ときたら! ああ、こんなにも楽しいことは他に無い。お前を壊すこと以上に楽しいことなんて。 今からお前は壊れるんだ。 「黙ってねぇと、痛い目に遭うからな」 じわりと涙があふれていたなまえの目から、雫がこぼれた。 |