壊すなら、今だと思った。
こんなチャンスはもう二度と来ない。それならば、今。


――…


困ったような表情で、頭を下げている女がいた。
静かな学校の屋上。
そこで、2つの声が響いている。

「俺、みょうじさんの事が――」
「…ごめんなさい、私…」

断片的にしか聞き取れなかったが、告白されてることぐらいはわかった。

誰にでも優しくて、見た目も良い女だ。勘違いなんていくらでもされるだろう。
俺にだってよくあることだ。だが、男の俺より女のあいつの方がそういう経験は多いんじゃないかと、少し思う。

「花宮先輩と、付き合ってんの?」

不意に聞こえてきた自分の名前に、ぴくりと耳をそばだてる。
なまえがどう答えるのか、純粋に気になった。
しかしなまえはさっきと同じように、困ったような笑みを浮かべて。

「そんな、花宮先輩みたいな人、私にはもったいないです」

どこが沸点だったのか、自分でもわからなかった。

俺は屋上の扉を開け、2人の前に姿を現す。「何してんだ」声をかければ、男は慌てたように屋上から姿を消した。嫉妬と焦燥が混ざったような視線を向けられ、軽く鼻で笑う。
なまえは俺が突然現れたことに驚いたのか、ほんのりと頬を紅潮させ、目を丸くさせていた。

「花宮先輩、今の、見てたんですか」

恥ずかしそうに目を伏せる。長い睫毛が目に影を落とした。

「たまたま、な」

本当は男と2人、屋上へと向かうなまえを見かけてついてきたのだが。そんなことはどうでもいい。
俺の返答になまえは小さく笑った。

「ごめんなさい、恥ずかしいところ、見られちゃいましたね」
「…いや、俺こそごめんな」

さらさらとした髪の毛に触れて、申し訳なさそうに微笑んでみせる。
なまえの頬は更に赤みを増していく。

美味しそうだと、思うと同時に。
このりんごみてえな顔が真っ青に染まるところを、見たくなった。
今、俺が手を出したら。この場にこいつを押し倒しでもすれば、こいつは。

「花宮先輩は、本当に優しいですね」

春先に咲く、花のような笑顔だった。

細い腕をとり、屋上の影になっている場所へと無理矢理つれていく。
突然のことに驚いたらしい、なまえは慌てたように俺の名前を呼んだ。返事はしない。
そのまま壁になまえを押しつけ、両手は暴れられないよう自分のそれで押さえた。

「は、なみや、先輩…?」

今までこういった経験は無かったんだろうか。
どうせ処女だろうといった考えもあった。こんなに清らかな女を、誰が穢せるというのか。

驚きと恐怖の入り交じった表情。目尻には涙が浮かんでいる。
もう一度呼んだ俺の名前は、か細い声で、わずかに震えていた。

ぞくり、背筋になにかが走る。

もう少し、あと少しだ。
ここでこのまま無理矢理犯してしまえば、こいつは壊れる。
儚い花のようでも、壊れればただの散って踏みつけられた花びらだ。
清らかな天使のようでも、壊れてしまえば堕ちた人間になる。
誰にでも優しい、聖母のようなお前は、俺の手によってただの人間になるんだ。
こんなにも楽しいことが、他にあるか。

「先輩、は、」
「優しい優しい花宮先輩は、こんな事しねえってか?なわけねぇだろバァカ。俺だって男なんだよ」

こうしたくて、お前に近付いたんだ。

そう告げた瞬間の、なまえの顔ときたら!
ああ、こんなにも楽しいことは他に無い。お前を壊すこと以上に楽しいことなんて。


今からお前は壊れるんだ。

「黙ってねぇと、痛い目に遭うからな」

じわりと涙があふれていたなまえの目から、雫がこぼれた。
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