緑間君へ お前と会うのは、あの日以来だな。 よく来てくれたのだよ。 俺も、お前と話したいと、思っていた。 …そうだな、自分の中で誰かと話して、整理をつけたいのかもしれない。 かと言ってあいつらと話そうとは思えないし、高校の奴らはあの人の事を知らない。 だから、お前が連絡をくれて、ありがたかったのだよ。 お前は確か、あの人と同じ星座だったな。 む、今日のラッキーアイテムもちゃんと持っているのか。あの人も毎日、持ってきていた。 変わり者だと、周囲にはいつも言われていたのだよ。俺も含め、だが。 しかし、俺以外にもおは朝を見て、ラッキーアイテムも毎日持っている奴がいるとは思わなかったから、初めて会ったときは嬉しかった。 あの人とは本の趣味も合ったのだよ。ピアノも、彼女が奏でる音色はとても心地が良かった。 あそこまで話が合う人間は、きっと、今までもこれからも…彼女だけなのだろうな。 !…その本、…そうか、お前もそれが、好きなのか。俺もそれが一番、お気に入りなのだよ。 お前とも、良い友人になれそうだ。 …なぜそこで嫌そうな顔をするのだよ。 彼女は、優しい人だったな。 常に人事を尽くしていた。 もし俺に姉がいたら、こんな感じなのだろうかと思っていた。 これからもずっと、互いを高めあえる友人として、理解しあえる人間として、いてくれるものだと思っていた。 …人の命とは、儚い物だな。人事など尽くしていても、それが意味のない時もある。 なにをじっとこっちを見ている。 別に、泣いてなんかいないのだよ。 彼女のために流す涙は、もう、あの日、流し終えたのだから。 これ以上悲しんでいては、あの人は安心して眠れないだろう。 俺は、もし俺が死んだとき、周りの人間にいつまでも悲しんでもらいたいなどと思わない。 自分のことなどさっさと忘れ、笑って、幸せに生きて欲しいと思う。 だからきっとあの人も、そう思っているはずなのだよ。 だから俺は、もう、泣かないんだ。 忘れるなんてことは、出来ないがな。 …手紙、か。彼女らしいのだよ。 どうせこれからの人生におけるアドバイスのようなものでも、書いてあるのだろう。 いなくなってまで、お節介な奴だ。 それが彼女の、良いところなのだが。 「周囲を頼ってください」 ほらな、と言いたげに緑間さんは目を細めた。 俺にその文面を見せることは無かったけれど、まあこの人に関してはなんとなく俺も内容を察せる。 そんな無粋な事は、しないが。 じゃあ俺は次の人のとこ行くんで、と立ち上がれば、ちょっと待つのだよと引き留められた。 渡されたのは、ピアノの楽譜。 お前もピアノを弾くのだろう?と、彼にしては優しい表情を浮かべながら。 黙り込んだままそれを受け取り、小さく頭を下げる。 まさか俺に、何かを渡されるとは、思わなかった。 これは姉が、好んで弾いていたもので。 楽譜には姉の字で、たくさんの書き込みがされていた。 姉の友人であり、良き理解者だったんだろう人から見た、姉の姿。 見上げた空は、真っ青の晴天だった。 |