青峰君へ


ああ、お前が、か。
まあ入れよ。つっても茶なんか出せねえけどな。

で?俺に用事って。
あいつがそう言い残したのか?俺に、わざわざ?
…や、嫌なわけじゃねぇよ。
ただ不思議…っつーか、なんつーのかな。
俺とあいつは、別に、仲良いわけでもなかったし、話なんざまともにしたこともそんなねぇからよ。
何であいつが俺に、って疑問なんだよ。

まあ、あいつはテツに似て読めないやつだったし、赤司に似て頭の良い奴だったから。
バカな俺には理解出来ねぇのも納得だけどな。

って、オイ、笑ってんじゃねーよテメェ。

…いいけどよ。


で、さっきも言ったけど、俺はあいつと仲が良かったわけじゃねぇから、そんな話せる事なんかねえぞ?
それでもいいってんなら……ああ、わかったよ。


そうだな…あいつと会ったのは中1ん時だった。
1年からバスケ部の一軍でマネジをやってたのはあいつとさつきだけだったからな、よく覚えてる。
そう考えると、あいつとの仲も3年はあったんだな。今思うと、結構長ぇわ。

すげえ奴だった、と思うぜ。
さつきみてぇに敵の情報収集とかは出来なかったけどよ、俺たちのタイム測ったりマッサージしてくれたり、あとあいつの作るドリンクが一番美味かったって今でも思う。ハチミツレモンもな。
あれは、良でも敵わねぇわ。
あ?あぁ、良ってのは…ちょうどそこ走ってんだろ、あいつ。料理うめぇんだよ、お前の姉貴…あいつと一緒でな。


俺はあいつと、事務的な会話以外したことねえ。
タイムは?とか、柔軟頼むわ、とかな。
だから、正直、お前から連絡がきた時はびびった。
赤司からあいつのこと伝えられた時も、そりゃびびったけど。
それ以上に、お前から連絡きた方が、俺はびびった。だって、中学卒業してからもう半年以上経ってんだぜ?
あいつん中に、俺の存在が残ってたのが、予想外だったんだよ。

…俺ん中にはあいつが残ってたじゃないかって?
あー確かに、それもそうだな。
じゃあ、あいつが、俺を覚えてたのも必然か。


…手紙?
あいつから、俺に…か?

なんだよそれ、ますますわけわかんねえ。
そんな関係じゃねーだろ俺。
そういうのは赤司や黒子に…あ?ある?まあそりゃそうだよな。
でも俺にまでんなもん遺してる、意味がわかんねーんだよ。
ま、読むけどよ…。


 「道を疑わないでください」


なんだこれ、と青峰さんは茫然と呟いて、そうして黙りこむと、ぐしゃりと姉からの手紙に皺を寄せた。
無意識の、ようだった。
俺は姉からの手紙に何が書かれているのか知らない。
けれどきっと、あの人の事だ。
なにかを抉ってくるような、けれどどうでもいい事が、あの嫌味なくらい綺麗な字で書かれているんだろう。

手紙を握り締める青峰さんに無言で一礼を残して、部室を去る。
姉の存在を知ってはいるが、関わりは薄かった人から見た、姉の姿。

まだ鞄の中に残っている5枚の手紙を確認し、俺は曇り空の隙間から溢れる陽光に、眉を寄せた。
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