赤司君へ



ようやく来たか、遅かったね。
他のキセキのとこにも行っていたんだろう?僕が最後かい?
…そうか、やっぱり最後はテツヤ、か。

いや、謝ることじゃないさ。
僕が彼女でも、きっとそうしただろう。


そうだね…何から話そうか。

僕と彼女が出会ったのは、中学1年の時だったな。
本当の光とは、彼女のような人のことを言うんだろう。
温かくて、一緒にいるとほっとする。
春の日だまりのような、そんな人だった。

かと思えば夏の太陽のように激しかったり、ね。
まったく、今思い出しても彼女は本当に、面白かったよ。


一緒にいて、落ち着ける人。
互いに良い影響を与えあえる存在。

子供の夢物語かもしれないけどね。
僕は、きっと彼女と生涯を添い遂げるんだろうと思っていたよ。
彼女ほど、僕にしっくりくる人間はいなかった。

きっと、これから先も……出会うことはない。


僕の気持ちを、境遇を、思考を、彼女は彼女なりに理解してくれた。
理解した上で僕の行動を認めてくれる時もあれば、咎める時もあった。
そういった時には、つい喧嘩をしてしまったけれどね。

…意外だとでも言いたそうだね?
僕でも、彼女と喧嘩くらいはするよ。
まあ、彼女に口論で勝てた試しは無いんだが…。


今でも、本当に夢を見ているようなんだ。

あの、彼女が。
もう僕の隣にはいない、なんて。
悪い夢だよ、本当に。

ああ、わかっているさ。
彼女はもういない。最期の別れもした。花も手向けた。お墓にも参った。

だけど、なんて言うんだろうな。
もうあれから、半年も経ってるのか。
それなのに、現実味がわかない。


今だって、その扉の向こうにいる気すらするんだよ。

今回のインターハイでも、洛山のマネージャーとして僕をサポートしてくれるはずだったんだ。
彼女から、タオルやドリンクを受け取って、頑張れと応援されて、大丈夫だと安心感を与えられて。
そうなる、はずだったんだ。

なのに。


…何で、なんて今更言うつもりはない。
僕は理解している。
彼女はもういない。

それが決められた運命だろうが偶然だろうが、とにかく、もういないんだ。
もう微笑みかけられる事も、あの温かい手に触れることも、無い。

それを何故、だなんて、言えないだろう?
君や、テツヤが、前を向いているのに。
僕だけがいつまでも彼女を想いながら、後ろを向いているわけにはいかない。


自分に言い聞かせるようだけど、僕は彼女に感謝しているんだ。
彼女がいたから、僕は優しくなれた。
彼女がいなくなったことで、僕は前より、強くなった。

彼女との全てを忘れないように、大切にして、前を向いて歩く。

そしてすべてに勝ち、僕が、勝者こそが正しいんだと。
…そうして初めて、彼女のために泣けると思うんだ。


なにか、渡したい物でもあるんじゃないか?
…へえ、手紙、か。
彼女も粋な事をする。

死者からのラブレター、といったとこか。

読ませて、もらうよ。


 「敗北の温もりを知ってください」


冗談めかした笑みを浮かべていた赤司さんは、けれど手紙を見た瞬間に表情を消して、黙り込んだ。
食い入るように文面を見つめたまま、1分、2分と時が経つ。

これは、俺は席をはずした方が良いだろうか。
そう思い立ち上がりかけた俺を、赤司さんの手が制した。

何かと思い、目を向ける。
しかし赤司さんの視線は未だ、手紙に向けられたままで。
考え込むように口元に手を当てる赤司さんに、どうしたものかと俺は椅子に座り続けた。

5分も、経った頃だろうか。

「これは、いつ、なまえが書いたんだ」
「……死ぬ、3日前くらいに」

そうか、と頷き、小さく笑う。
何かを慈しむような、懐かしむような。
今にも、泣きだしそうな微笑みに、思えた。


姉と想いを通わせ、手を取り合っていた人から見た、姉の姿。

席を立ち、赤司さんに頭を下げて、洛山のバスケ部員達が泊まっているホテルから出る。
空は変わらずの快晴だ。水色の空は、幼馴染みの彼を思い出させる。

太陽の眩しさに手をかざせば、俺の目元に影が落ちた。
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