翌日の私とタカト先輩は、仮アジトでの留守番係だった。
ハンター試験を受けに行く前は誰かしら旅団員を残してお仕事に行ってたけど、今となってはそれも必要なしと判断したんだろう。三駅程離れた村にある遺跡だか資料館だかに面白そうな物があるから行ってくる――注釈、盗ってくる――と、クロロたちは仮アジトを去っていった。私と先輩を除く全員で行ったのは、その村にちょうどハンターが数十人集まってるかららしい。
ともかく、今日一日は特にやることもない。私も先輩も、悲しいかな日がな一日一緒に行動するほどの仲ではないので、各々好きに留守番タイムを楽しんでいた。
先輩は近くの原っぱで念能力の修行。私は自室で読書タイム。こういうとこでアウトドア派とインドア派の違いが出るなと思う。

私が本から目を離したのは、二冊目を読み切る少し前の時だ。一応留守番係なのだし、と仮アジト全域を覆う円を広げていたんだが、そこに誰かの気配が引っかかった。
もちろん旅団員の誰かではない。そもそもまだ帰ってくるような時間じゃない。
まず、その気配は警戒心むんむんだ。よりにもよって今来るかあと軽く舌打ちをしつつ、本に栞を挟んで上着を羽織る。

「ミズキも気付いたか」

とりあえず刀を片手に家を出れば、同じく気配を感じたんだろう、先輩が戻ってきていた。その手に音楽プレイヤーが握られているのを視認してから、頷く。
円に触れた気配からして、来客は十一人。全員が念能力者だろう。私の円に気付いて尚入ってきたのか、それとも気付かず入ってきたのか、そこまでは判別つかない。なんにせよ旅団の仮アジトを見つけられる程度には優秀で、今この時侵入してくる程度には、拙劣な集団だ。
十中八九賞金首ハンターかどこぞの復讐者のどっちかだろうけど、ここに旅団はいないし。いるのは善良な私と先輩だけだし。その私と先輩だって、そこらのハンターに負けるほど弱くないし?

「この気配だと、話し合いで帰っては……もらえねえよな」
「でしょうね。私たちが旅団だろうがそうじゃなかろうが、殺す気満々、って感じです」
「……迎え撃つしか、ないか」
「少し相手したら、撤退してくれるといいんですけどねー」

二人して肩を竦めながらも、侵入者たちの元へ歩を進める。
住居周辺で戦うのは嫌だ。うっかり壊したら落ち込む。

とりあえずは距離を縮めつつ、戦いやすいスペースに誘導するよう少しず足を速めていく。
ようやく侵入者たちと対峙したのは、商店街からやや逸れた裏路地だった。裏路地といってもほとんどの建物が更地となっているから、見晴らしはいい。
十一人の侵入者は、一人の男を筆頭にまとまっているグループのようだった。烏合の衆であれば楽だったのだけど、統率がとれているとすると少しばかりめんどくさい。
それでもまあ、私と先輩なら大丈夫だろう。油断だけはしないようにと意識して、刀を鞘から抜く。

「いたぞ! かかれ! 殺せ!」

リーダーらしき男が吠える。せめて旅団員かどうかの確認くらいはとってもよくないか。この場で武器構えてる以上、団員じゃなくても黒判定だろうけども。

「――いくぞ、ミズキ」
「はい、タカト先輩」

頷いた瞬間、先輩の手にする音楽プレイヤーからスピーカーを通して曲が鳴り響く。途端、侵入者たちの立っていた地面がせり上がり、宙へと浮いた。侵入者たちは驚き、浮遊する地面から落ちないよう体勢を整える。
その隙をついて、私の刀が侵入者たちへと襲いかかった。周で強化した刀じゃあ、安心しろ峰打ちだ、とは言えないなあと心の隅で考える。全身打撲に複雑骨折。気を失ったのは先行してきた四人。
残りは七人。

内一人が出してきた念獣の鯨が潮を吹くが、それは先輩の操った木々が集まり傘役を担ってくれる。潮によって木々が枯れていく様をヒエ……と見やりつつ、先ほど先輩が浮かせた土の塊を糊状オーラで覆って強化し、蹴り飛ばす。
それは念獣を用いていた能力者の顔面にクリティカルヒットし、鯨も消えた。土だから多分死んではいないはずだ、多分。鼻の骨とかはあれかもしらんけど。
残り六人。

そんな調子で、サポートかつ攪乱役のタカト先輩と、殺してないけどとどめ役の私とに別れ、残り三人まで侵入者を減らせた。
グロ系とか虫系能力者がいなくて何よりだ。せっかく先輩と初めての共闘なのに、いやだ〜! 無理〜! 状態にはなりたくない。

と思っていた矢先。リーダー格の男の傍らに控えていた男が、宙へ手をかざした。瞬間、彼らの頭上が黒く染まる。ブンブンと耳障りな音が、鼓膜を揺らす。
「ミズキ、一旦下がれ!」とタカト先輩の声が聞こえたけれど、私はウワ……と内心ドン引きしていた。
背景が見えなくなるほどの黒い塊は、蜂の大群だ。ポンズと被ってるじゃないですかやだー。ていうか蜂の大群は普通に怖い。
あれは木行の火で焼き払えるんだろうか……活性化させて大丈夫かな……どこぞの宇宙生物さながらに巨大化とかされたらどうしよう……。
考えつつもとりあえず後退し、クロロ戦の時のカラスみたく糊状オーラでひとまとめにするのが無難か、と思考をまとめる。
地面からじゃ全容が掴みづらい。普通にジャンプしてもそれなりに高い位置まで跳べるけど、出来れば何か足場が欲しいところだ。蜂も結構高いとこにいるし。
となると、あんまり気は進まないんだが。

「すみません先輩、補助お願いします!」

一旦敵に背を向け、助走をつける。先の言葉だけで私のやろうとしていることがわかったらしい先輩は、やや腰を落とし、両膝の間に組んだ手を構えた。
これぞあうんの呼吸……完璧じゃん最高……。胸がいっぱいになるの半分、先輩の手を足蹴にする申し訳なさ半分の思いを抱えたまま、地面を蹴る。
そうして先輩の手に片足を乗せ、「頼んだ!」「了解です!」と、私は天高く投げ飛ばされた。
蜂の大群は遙か下方。頭を下にした姿勢のまま、そいやっと勢いで糊状オーラを放つ。だから私は放出系じゃないんだよなあ。いいけど。
これで蜂は一網打尽。あとは地面に叩きつけて、と考えた瞬間、鼓膜を直接震わすように、ぶうん、と嫌な羽音が聞こえた。

眼下で、先輩の蹴りが侵入者の内一人にキメられたのと。
蜂の大群を地面に叩きつけ、ついでに二人ほどを巻き込んで潰したのと。
ちくり、微かな痛みが首筋に走ったのは、ほとんど同時で。




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