無事に戻ってきたゴンとキルアも登録を済ませ、ゴンはウイングさんの言いつけを破って戦闘日も申請した。
まあそれはいいのだ。ゴンが怪我するとこも見たくはないけど、ゴンにとっては必要なことなんだし。

そして私と先輩は今、ゴンの部屋でキルアとゴンに見下ろされている。
姿勢は何故か正座だ。タカト先輩まで正座。私たち年上なのに。どうもゴンはともかくキルアはそれなりにおこのようで、ぶすくれた表情で両腕を組んで仁王立ちしている。

「いつから知ってたんだよ」

念のこと。
キルアの声は、態度の割には静かだった。
先輩と視線を合わせ、とりあえずは私が答えることにする。

「最初っから。ハンター試験の時には、もう念を覚えて一年弱……くらいだったかな」
「じゃあ何で教えてくんなかったんだよ。お前ら二人共、ズシの話した時点で気付いてたんだろ?」
「それはさっき言っただろ。俺らだって人に教えられるほどじゃないって」
「ウイングさんのこと噂で知ってたから、あの人の方が適任だと思ったの。最初に誤魔化されたとしても、時期が来れば必然的に教えなきゃいけなくなるだろうし、私と先輩は黙ってても大丈夫だと思った。あの場にウイングさんが現われなかったら、仕方ないから教えたかもだけど」

変わらずぶすくれたままのキルアを、まあまあとゴンが宥めている。
そろそろ正座はやめていいだろうかと思い始めたところで、ちぇ、とキルアが舌打ちをこぼした。

「今更どうこう言っても意味ねーけどさあ、念がどういうものかくらいは教えてくれてもよかったんじゃねーの? そんでウイングに習えってんならわかるけど、はーあ、最初っからだんまりは傷付くぜー」

タカトもミズキも隠し事うまそーに見えねえのになーと、キルアは天井を仰いでため息をつきながらソファに沈んだ。
多分、一応、飲み下してはくれたんだろう。なんとなく察して、私も先輩もそっと立ち上がる。

「ごめんねキルア。ゴンも。お詫びにもなんないけど、この先念についてわかんないことあったら、出来る限りアドバイスするから」
「なーんかミズキにセンパイヅラされたくねーなー」
「そしたらオレたちも、タカトのことタカトセンパイ、って呼んだ方がいいのかもね」
「うわ、なんか変な感じ。タカトのままでいいよ」
「ミズキは? ミズキセンパイ、の方がいい?」

私は思わず天を仰いだ。ゴンが……ゴンが私をミズキ先輩って……最高……学パロ味わった気分……。
でもタカト先輩の言う通りなんか変な感じなので、ミズキのままでお願いします。そんな先輩ぶれるほど念に詳しいわけじゃないしね!


 +++


日付は変わり、翌日。
ゴン対ギド戦は原作通りの決着となり、ゴンは全治四ヶ月の怪我を負った。右腕、とう骨、尺骨、完全骨折。上腕骨亀裂。肋骨三カ所完全骨折。亀裂骨折が十二カ所。
ある程度の治療を済ませ自室で安静、となったゴンをキルアが叱っているのを、私はソファに座って眺めている。タカト先輩はキルアの傍らに立っていた。

集中して舞闘独楽の攻撃を避けるため、出来る限り長く戦うため、絶の状態で独楽を避け続けたゴン。それでも逃げ場のないところへ動いてしまい、いくつもの独楽に襲われた。
初撃が当たって以降は纏の状態に戻したにしろ、絶の状態で独楽の攻撃を受けたのだ。骨折程度で済んでよかったと思うしかない。ギドは非力だから死ぬことはないと言っていたけれど、当たり所が悪ければ死ぬ可能性も、何かしらの後遺症を抱えることになる可能性もあった。そうならなかっただけ御の字だ。

考えつつ眺めていれば、キルアの説教がある程度終わった頃、タカト先輩が一歩前に出る。
オーラからしてなんとなくわかってはいたんだが、その顔もきっと怒ってるんだろう。苦笑気味だったゴンの顔がしゅんと力をなくした。

「言いたいことは大体キルアが言ってくれたけど、俺からも一言言わせろよ。ゴン、あの戦いはお前にとって必要なもんだったかもしれない。いい経験にもなっただろうって思う。でも、俺は友だちが怪我してるとこなんざ見たくねえよ。一生怪我すんなっつったって無理な話だとはわかってるけど、せめて時と場合は考えろ」
「う、……ごめん、タカト」
「キルアも言ってたろ。俺に謝っても仕方ねえよ」

二人に叱られていよいよへこんでいるゴンが、ちょっとばかし可哀相になってくる。自業自得だけど。
それでもこの後、ウイングさんにまで叱られるのだ。ここらでちょっと飴役を担っておこう。私もどちらかというと叱りたいサイドではあるけど、一人くらいはまあ、甘やかす人間がいてもいいはずだ。
ていうかしゅんとしてるゴン見ると叱るとか普通に無理。撫でたさしかない。

ゴン、と立ち上がりがてら声をかければ、しゅんとしたままの視線が私へ向けられる。ミズキにも叱られるんだろうな、っていう顔。自覚があるのはいいことだ。
そっと歩み寄り、ひとまずは欲望のままにゴンの頭を撫でる。ツンツンとかたさのある髪の毛。痛々しい姿。この子は本当に、よく怪我をする。

「脳や内臓にダメージがなくてよかった。全治四ヶ月の怪我だけど、骨折だけで済んでよかった。独楽を避け続けるゴンはすごかったよ。ゴンなら次はきっと勝てるから、今は治すことに専念してね」
「ミズキ……。うん、ありがとう」
「ミズキはゴンに甘いんだよなあ」

キルアがぼやくが、聞こえなかったふりだ。

ぶっちゃけ私ならゴンの骨折なんてすぐに治せる。あれからも地道に修行を続けてきたんだ、骨折なんてちょちょいのちょいだ。
でも、治さない。それは原作がどうこうではなく、当然私も怒ってはいるから。ゴンのそういう危なっかしいとこだけは、本当に直してほしいと思う。

その後ウイングさんもやってきて、聞き覚えのある言葉でゴンを叱り、それから二ヶ月間の試合と修行を禁じた。ゴンの小指に誓いの糸を結び、キルアを伴って部屋を出る。
少し悩んで、私とタカト先輩もそれに続いた。今のゴンは、一人にしておくべきだと思ったからだ。
ウイングさんとキルアの会話を聞き流しつつ、ていうかそういや私明日試合だな、とすっかり忘れていたことを思い出す。さすがに負けるなんてこたないだろうけど、無傷で勝てるかなあ。10ポイント制ってのがいけてない。

ソッコーで終わらせるためにはダウン取るのが一番だな……一撃で沈めればよいのだ……とちょっと危ないことを考えていた辺りで、キルアとウイングさんの話は終わったようだ。
ぬけがけみたいになるから、念の修行はゴンと共に始めると。そう告げるキルアの背に、ウイングさんは最後の言葉をかける。燃える方の燃の修行なら認める、そうゴンに伝えるようにと。
つーかキルア、私と先輩のこと置いてったな。ちょっと困ったように私を見やる先輩へ苦笑を向け、まあ今日は解散って形でよいのではと自室の方へ歩き始める。
けれど私たちは、ウイングさんに引き止められた。
ウイングさんはどこか言いづらそうにしながらも、私たちを真っ直ぐ見据えて問いを投げかけてくる。

「これは――言ってしまえば、ただの興味なんですが。……君たちは一体、誰に念を習ったんですか?」

もちろん、幻影旅団の団長が総監督でした、なんて答えられるわけがない。
先輩と顔を見合わせてからウイングさんに視線を戻し、にこりと笑った。ほんとに教えてもらったわけじゃないけど、タカト先輩直伝、何を考えてるかわからない笑顔だ。

「私たちの、」
「家族だよ」

多分先輩も、おんなじような表情をしている。
ぞくりとウイングさんの背筋が震えたのが、手に取るようにわかった。
うーん、なんというかこういう悪役っぽい感じの演出するの、楽しいんだよなあ。やっぱり旅団に毒されてる気がする。特に先輩が。




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