※先輩視点



「ゴン!! タカトも! あと、えーとクラピカ! リオレオ!」
「ついでか?」
「レオリオ!!」

夕暮れ頃に辿り着いた執事室での、ゴトーさん曰く「ちょっとしたゲーム」は俺とゴンの勝ちで終わった。
それとほぼ同時に、聞いていた通りキルアが現われてほっとする。

だけどすぐに、疑問が浮かんだ。
ゴンとの再会を子供らしく喜んでいるキルアには悪いが、会話が一段落した合間を狙って、なあと肩を叩く。

「キルア、ミズキはどうしたんだ?」
「、あー……途中まで一緒だったんだけど、なんか兄貴が話あるって呼び止めちゃってさ。すぐ行くとは言ってたけど」
「……そか」

イルミのやつ。ミズキもミズキだろ、んなもん振り切って、キルアと一緒に来ればいいだろうに。
ほんの少しだけ眉根を寄せていれば、バンと控えめに、けれど慌てたように、キルアが入ってきた扉がまた開いた。

「ミズキ!」

ゴンが嬉しそうな声を上げる。視線を向ければ、軽く肩を上下させているミズキが見えた。
いつも付けていた深緑色のシュシュが、薄いピンクのものに変わっている。よく見れば桜模様のようだ。気が付いた瞬間、無意識に眉間の皺が寄る。すぐに自覚して、元に戻したけれど。

「ごめん、遅くなって。久しぶり、ゴン」

駆け寄っていったゴンの頭を撫でながら、ミズキが微笑む。

「クラピカと、リオレオも久しぶり」
「だからレオリオだっての!」
「あはは、ごめんごめん」

多分わざとだろう発言をレオリオに向けて笑うミズキは、いつもと変わりなく思えた。
なのに、何でだろう。変わったシュシュが引っかかる。

「タカト先輩も、お久しぶりです」
「、ああ……久しぶり。元気そうだな」
「もちろんです」

ふわりと、嬉しそうにはにかんでいた。一度、おさまったはずの胸の痛みが、またじわじわと広がってくる。
桜模様のシュシュから目が離せないまま、クラピカとミズキたちの会話を遮り、ぽつりと問いかけた。

「なあ、そのシュシュ、どうしたんだ?」
「あ、ほんとだ。ピンクになってる」
「これは、サクラか。ミズキさん、ずっと深緑色のものを使っていたのに」
「イメチェンか?」

俺の言葉に続いて、ゴン、クラピカ、レオリオがミズキのシュシュに目を向ける。ミズキは困ったようにシュシュへ軽く触れて、声とも言えない音を小さく漏らした。その様子は、恥ずかしがっているようにも、見える。
隣に立っていたキルアが、にんまりと楽しそうな笑みを浮かべて、ミズキのシュシュを指さした。

「これ、兄貴からミズキへのプレゼントなんだってよ。他にもあと二つあって、」
「うっわちょっと、キルア!」
「んだよ、恥ずかしがんなって」

執事たちのいる手前か手を出汁はしなかったけれど、ミズキは真っ赤な顔でキルアに詰め寄る。

「へえ、イルミにもらったのか」

意図せず出たのは、いやに低い声だった。

さっきまで赤かったミズキの顔から色味が消えて、怖々とした表情で俺を見上げてくる。
そんな顔で見んなよと言いたかったが、俺の喉は動かなかった。

何で、こんな苛ついてんだ。何でこんな、ムカつくんだ?
イルミは昔っからミズキのこと好きだっつってたし、プレゼントくらいやるだろ。そんなの、イルミの自由だ。俺がどうこう言える話じゃない。
そのプレゼントに対してミズキが喜ぼうが恥ずかしがろうが、それだって、俺にはなんも言える権利ねえし。
仮に、イルミとミズキがくっついたって、俺には関係、ないんだし。

「……? とにかく、早く出発しよーぜ。ここいるとおふくろうるせーし」

無言ばっかが続く妙な気まずさを断ち切ったのは、キルアの言葉だった。キルアとゴトーさん、ゴンが話している中、俺は一足先に執事室を出る。
ちらとミズキの様子を窺えば、泣きそうな顔でシュシュを外していた。


 +++


「タカト先輩、」
「……ん」

ゴンたちとは少し距離をあけて、二人、横並びに歩く。
何かを言おうとしたのか、俺の名前を呼んだミズキにどうにか相槌を打ったものの、ミズキはそこから先を口にはしなかった。
横目に見れば、ほんの少し跡の残るおろされた髪が、歩く度にふわりと揺れている。

「ミズキは、髪おろしてんのも、いいと思う」
「、え……?」

ミズキの方は見ずに、呟く。

ちょっと考えてみれば、思いつきもしなかったけど、わかった。
俺は、イルミに嫉妬してたんだ。ミズキの一番近くにいたのは、この世界では俺のはずなのに。ミズキがイルミのことで嬉しそうにしてるから。顔を、赤くしてたから。
ヒソカのことが嫌いなのも、ミズキと仲が良いからなんだろうなと今更理解する。
はあ……ガキか、俺は。

「あ、じゃ、じゃあ、時々……そのままに、してみます」
「うん」
「先輩、あのシュシュ、似合いませんでしたか?」
「……いや、似合ってたよ。ただ、」

再び、横目にミズキを見やる。きょとんとした顔をしているミズキは本当に無防備で、こりゃダメだわと思った。
イルミやヒソカから俺が守ってやんねーと、こいついつかまじで襲われるんじゃねーのか。というかこの二十日間、大丈夫だったのかよ。

「イルミからってのが、癪だっただけ」

独り言のように吐き捨てる。

そのまま数歩進んで、ミズキが立ち止まっていることに気が付いた。
振り向いて、名前を呼ぶ。俯いたミズキに反応はない。もう一度名前を呼びながら歩み寄れば、勢いよく両手で動きを制された。
驚き混じりの声で、三度目、名前を呼ぶ。

「ちょ、っと今、整理してんで、先行っててください……!」
「はあ? んなとこにお前置いてって、イルミにでも攫われたらどうすんだよ。ほら、行くぞ」
「あああ待って待ってまじやめて!」

敬語とれてるし。
呆れ笑いを漏らしながらも、顔を覆っているミズキの手をとって歩きだそうとした時、ようやく気が付いた。

ミズキの顔が、真っ赤に染まっている。さっき、執事室で照れていた時の比じゃない。
茹で蛸、ってよく喩えてるけど、それ以上だ。耳どころか首まで真っ赤にして、ちょっと涙目にすらなっていた。
そんな状況のミズキを見てしまった俺まで、つられて顔が熱くなってくる。

「……行くぞ」
「う、……はい……」

赤くなってるだろう顔を見られたくなくて、ぱっと顔を背け、ミズキの手を引いたまま歩きだす。
俺の後ろをついてくるミズキの手は、熱でも出てんじゃねえのかってくらい熱い。そしてきっと、俺の手も熱いんだろう。そう思うと、ため息が出そうだった。

まじでガキじゃねーか、こんなん。




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