※先輩視点



目を覚ましたと同時に感じたのは、激しい頭痛と吐き気だった。
それでもなんか、やばい状況だったってことだけは覚えていたから、必死にいろいろと思い出す。なんでこんなに頭が重いのか。俺は今、どこにいるのか。

確か、そうだ。ミズキと訳が分かんねえ出来事に巻き込まれて。森の中で、変な生き物に襲われて。俺を庇ったミズキが怪我をして、どうにか助けてもらえないかって、ようやく見つけた人に頼んだんだ。
何でかミズキが名前を知っていた、シャルナーク、って人に。
それで、途中で倒れてしまったミズキと狼狽える俺を抱えて、シャルナークって人がここまで来た。俺はミズキとは別の部屋に置いていかれて、そこにガタイのいい男が二人いて、なんやかんやで酒を渡されて――……やべえ、そっからが思い出せない。

なんか途中でミズキが戻ってきたような気はする。んだ、が、……だめだ、頭痛い。気持ち悪い。
ふらふらと歩けば、水道らしきものが見つかった。蛇口をひねれば存外綺麗な水が出てきたから、それで顔を洗って、口をゆすぐ。少しだけすっきりした。
そのままの足で扉を抜ければ、廊下に出る。奥の方から人の声は聞こえた。でも、ミズキの声は聞こえない。

ミズキはどうなったんだろう。どこにいったんだろう。
もし、俺だけが、助かったなんてことになってたら。

「なにふらふらしてんだ? おらよ、水」

ぽん、と背後から肩を叩かれる。振り向けば、見覚えのある男がペットボトルを手に立っていた。
相変わらず重苦しい頭のままぼんやりと見上げ、ええと、そうだ、確かこいつは……フィンクスだ。そう思い出す。

「フィンクス……で、合ってるよな?」
「飲み過ぎで記憶飛んだか? お前もガキだな」
「未成年だって、さんざん言っただろ……」

受け取ったペットボトルは、どうやら水のようだ。蓋をあけ三口ほど飲めば、ようやく頭がはっきりとしてきた。
フィンクスに礼を言い、ちびちびと水を飲み続けながら声のする方へ一緒に歩きだす。
どうやら俺は三時間から四時間くらい寝ていたらしく、外を見れば遠くの空が若干白んできていた。もう夜明けが近いらしい。

ほとんど覚えてないけど、ミズキと、ここにいた……確か――旅団の人たちが、妙にピリピリしていたような記憶はある。それに、ミズキは腕の怪我だってまだ痛むはずだ。毒だとシャルナークは言っていたけれど、それはどうにかなったんだろうか。
無事であってほしい。この先に、声のする方に、ミズキがいてくれればどれだけほっとするか。

それでも辿り着いた部屋には、見覚えのない女が二人と、男が三人しかいなかった。男のうち二人は、ウボォーとシャルナークのはずだ。一人はわからない。女の方はどっちがどっちかはわからないけど、パクノダとシズク、ってフィンクスが言ってた気がする。
ミズキは、いない。……どこか、別の部屋で寝てるのか。そうであってくれと、心の中で祈る。

「おっタカト起きたのか! あんだけの酒で酔い潰れるなんざ、お前もまだまだガキだなあ!」

だから未成年なんだって。
こちらに気が付いて降りてきたウボォーが、俺の肩をばしばしと叩く。少し痛い。なんとなくすんませんと謝りながら、改めて周囲に目を向けた。
この人たちは、幻影旅団、っていう名前の盗賊団、らしい。んでコンクリートも素手で砕けるくらい、すっげえ強い。

そんでミズキは、何でかは知らないけど、この人たちのことを知っていた。
……まさか、と最悪の予想が、脳裏をよぎる。

「な、あ、ウボォー。俺と、一緒だった……ミズキ、今、どこに」

ほんの一瞬前まで笑っていたウボォーの顔から笑顔が消えて、しんと辺りが静まる。
何で、無言になるんだよ。ミズキに何かあったのか? 怪我の処置が、間に合わなかった、とか? でも一度は起き上がって、俺たちのとこに来たはずだ。じゃあ、その後に、何かがあった?
ま、さか。殺された、なんてこと……ない、よな?

だって、ここは異世界ってやつで、俺たちが見たこともない変な生き物が普通にいて、んで、あいつは女で、後輩で、俺が守ってやんなきゃいけなかったのに、俺を庇って怪我して。
それで、ミズキは、どうなったんだよ。
俺、まだ、あいつにお礼も言えてないんだぞ。ごめんなって、謝ることだって、出来てないんだ。

ウボォーもフィンクスも、何も答えない。どことなく不機嫌そうな顔で、俺から目を逸らしている。
じゃあ、もう一度。今度はシャルナークに訊こう。きっとあの人なら答えてくれるはずだ。それがダメなら、他の三人に訊けばいい。
あいつが、ミズキが、死ぬわけないんだ。だってミズキが死んだら、俺はこの何が何やらわかんねえ世界に一人きりで、二人で元の世界に帰ることだって、出来なくなるじゃないか。そんなのは絶対に、嫌だ。

ぐっと身体に力を入れて、一歩踏み出す。
悪い方に悪い方に考えだす思考を無理矢理止めて、大丈夫、生きてる、きっとどっかの部屋で寝てるだけだって言い聞かせて。
あの、と声をかけようとした瞬間。

「お前いい加減にしろよハゲコラァ!!」

すげえドスのきいた叫び声と共に、袋を抱えたミズキが、背後の扉を蹴破って来た。




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