※先輩視点



ゼブロさんとシークアントさんの家で訓練を初めて、二十日が経った。
元から軽く押すだけでミズキと同じ四の扉まで開くことが出来た俺は置いといて、ゴンとクラピカは一の扉を、レオリオに至っては二の扉まで開くことが出来るようになった。
俺もゼブロさんたちの家で世話になってる間は、あまり重さを感じない重しをつけて生活してたけど、ゴンたちみたく成長したのかどうかはわからない。まあ元から上限いってるようなもんだし、そんなもんだろう。不本意だけど。

六や七の扉まで開くのはなんとなく嫌だったけど、ミズキと同じってのも先輩としてどうなんだと思ったから、俺は五の扉を開けてゾルディックの敷地内へと入った。
ゴンたち三人も続き、再びミケという巨大な動物と対面する。

ミズキから最後に連絡があったのは、三日前。
内容は他愛のないものだったけど、それが無性に嬉しく感じたのは何でだろう。以降、暇さえ見つければ携帯を見てしまうのは、何でなんだろう。考えてみても、いまいちピンとこない。
とりあえずキルアは無事らしいし、ミズキも元気そうだからいいんだけど。

「今日、そっち行く」とだけ書いたメールを送り、携帯をしまう。
森の奥に見えるゾルディックの屋敷は、随分と遠く思えた。


 +++


ドレッドヘアーのような、変わった髪型の女の子――確かミズキが「敷地内に入って一番最初に会う執事服の女の子は、カナリアという子です。優しい子ですよ」と言ってたっけか――が、ゴンに向かっていくのを、痛々しいと唇を噛みながら見守って。
もう見れたもんじゃない顔になってきたゴンの言動によって、本音を吐きだしたカナリアも見守って。
そのまま、キキョウ……と言っただろうか、キルアの母親に彼女が撃たれるのも、ただ見つめていた。

ミズキは今まで、こんな気持ちだったんだろうか。
気持ち的には助けたいと思っている。けど、どうすべきかがわからない。俺が動いていいのか、手を出していいのかがわからない。ここにいるやつらの気持ちを、踏みにじりたくない。
……やるせない。そんな感じだ。

キルアの母親と並んでいる子供には、見覚えがあった。確か、ミズキを迎えに来ていた子だ。俺の目には女の子にしか見えないが、ミズキ曰く男であるらしい。
母親はキルアからの伝言を話し、少しの間を置いてから自己紹介を始める。

「紹介が遅れましたね。私、キルアの母です。この子はカルト」

カナリアを気絶させたことに関して、まったく意識してないんだろう。そう思わせる声音だった。気にも留めていないし、もしかしたらもう忘れてすらいるかもしれない。

「キルアがオレたちに会えないのは何でですか?」
「独房にいるからです」

カナリアの状態を確認したゴンの問いかけに、母親はあっさりと答える。
ミズキから聞いてはいたけど、独房、て。もう今更思うのもなんだけど、本当に現実離れした世界だ。何で家の中に独房があるんだよ。

「キルは私を刺し、兄を刺し、家を飛び出しました。しかし反省し、自ら戻ってきました。今は自分の意思で独房に入っています。ですからキルがいつそこから出てくるかは、私にはわかりません」

ゴンの顔が、僅かに強張る。

ミズキは、キルアは元気だと言っていたけど、本当に大丈夫なんだろうか。イルミのこともあるし、他にも兄弟はいるらしいし、やっぱり不安が残る。
それにこんな母親がいるような場所で、ミズキはまじで元気に過ごせてんのか? 俺だったらすげえストレス溜まりそうなんだけど。
ゆっくり、視線をキルアの母親へ向ける。カルトと呼ばれていた子から妙に敵意のこもったオーラを感じたが、気にしないことにした。

「あの、すみません。ミズキは今、どうしてるんですか?」
「……ああ、もしかしてあなたが、ミズキちゃんの言っていたタカトさんかしら」
「え、はい」

ほんの少し、びっくりした。ミズキ、俺のこと話してたのか。
……何て話したんだろう。

「彼女は今、イルミとお茶でもしている時間でしょう。楽しそうに過ごしていますよ。……ところで、あなたとミズキちゃんのご関係は?」
「、……えっ?」

予想外の問いかけに思わず聞き返してしまったが、言い直してはくれなかった。聞き取れてはいたから問題ないんだが、それでも、頭の中が一瞬ぐちゃぐちゃになる。
浮かんできた言葉は、そんなの、俺が訊きたい、だ。何でそんな言葉が浮かんできたのか、俺にはわからなかった。
クラピカまでもがじっとこっちを見つめているのを横目に捉えつつ、母親から目を逸らす。

俺と、ミズキの関係。
どいつもこいつも、そんなん訊いてどうすんだ。

「……ただの、先輩と後輩、ですけど」

長い間があいてしまったような気がするが、結局はそう、いつも通りの返答をする。
瞬間、ちくりと心臓の辺りに痛みが走った。
ならいいのですと、それだけの返答を受けたあとに、また痛む。

なんだ、これ。
痛みの理由がわからなくて、胸元を押さえる。着ていたシャツに、少し皺が寄った。
よくわかんねえ、けど。なんか、早く、ミズキに会いたい。

そうこうしている内に、キルアの母親は一人でパニクってさっさといなくなってしまった。
残っていたカルトがきつい眼差しを俺たちに向けてから、母親を追いかけていったのを見送り、一息吐く。
胸の痛みは、少しだけおさまっていた。

「――私が……執事室まで案内するわ。そこなら屋敷に直接繋がる電話があるから、ゼノ様がお出になられれば、あるいは……」

これからどうするかを決めあぐねていた俺たちに、意識を取り戻したカナリアが告げた言葉。
確か、このあと執事室に行って、コイントスみたいなゲームをしたら終わった頃にキルアが来る、だったか。

先を知っていると、このあとどうなるのかがわかんなくてびくびくする必要がないから、その点だけは楽だな。試験内容とかだけなら、試験中に知りたかったくらいだ。
そんなこと、もちろんミズキには言えねーけど。




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