二週間弱ほどが経って、ようやく私はキルアと会わせてもらえることになった。
案内された先の独房に、繋がれているキルアと、二人きり。場所が場所なのもあって、余計になんだか気まずさを感じる。

「――試験の時は、ごめん。キルア」

最初に口を開いたのは、私だった。
イルミと共に現われ、この場に一人残された私にびっくりしたまま目を丸くしていたキルアも、そこでやっと小さく目を細める。

「何で、ミズキが謝るんだよ」
「うーん……結局イルミと同じように、キルアを帰らせちゃったから」

言いながらキルアの足元に座る私を、意味わかんねとでも言いたげな視線でキルアが見下ろしている。

それなりに、反省のようなものはしていた。
最終試験。自分の行動が間違っていたとは思わない。私は私のために、私が出来る最善のことをした。けれどそれは、正しい行動だとは言えないことも理解している。
あの場ではああするのが一番だったはずだ。他にどうすればいいのかもわからなかった。
だけど、キルアの外に出たい、という意志を踏みにじってしまったのもまた、事実で。

だから、ごめん。
自己満足だとはわかっているけれど、せめて謝りたかった。

「別にそれは、気にしてねーし……俺こそミズキのこと刺しちまったわけだし。……傷、平気か?」
「うん、もうすっかり」
「すっかりぃ? バケモンかよ。つーか今更だけど、ミズキと兄貴ってどんな関係なわけ?」

あからさまに話題を変えてくれるキルアに、笑みが漏れる。
聞こえないくらいの声でありがとうの言葉を紡いで、その質問に答えた。

「一、二年くらい前かな。そんくらいからの知り合いというか、なんというか。私は友だちのつもりだったんだけど」
「もしかしてじいちゃんが言ってた兄貴の嫁って、ミズキのことか?」
「不本意ながら。私は同意してないけどね」

何度も言うが、どんだけ外堀を埋められようと嫁になる気はない。
でもそろそろ否定すんのめんどくなってきたな……アッもしかしてそういう作戦……?

思いがけぬ事実だったのか、キルアは「ありえねー……」と複雑そうな顔をする。
そのありえねー、はどういう意味のありえねーなのか若干引っかかりはしたが、なんか傷付きそうな気がしたから問うのはやめておいた。藪蛇にはなりたくない。

「あと、そうだ。ゴンとクラピカとレオリオと先輩、きっともうすぐキルアを迎えに来るよ」
「……まじで?」
「マジで。ゴンとキルアは、もちろん他の三人とも、友だちだもんね」
「……、」

照れたように、キルアは黙り込む。けど、その表情は悩んでいるようにも見えた。
暗殺一家は複雑だなあだなんて、肩を竦める。

「俺、あいつらの友だちに、なれんのかな」

ぽつりと漏らされた言葉。
小さくため息をついて、立ち上がる。そして、キルアの頭をぺしんと軽くはたいた。
ややキレ気味の視線が私を射抜く。やめてこわい。

「最終試験の時、レオリオが言ってたでしょ。もう友だちだろって」
「……ん」
「友だちって、友だちになろう! っつってなるもんじゃなく、気付いたらなってるもんじゃん? 私、初めてゴンとキルアに会った時、友だちなんだろうなって勝手に思ってたよ。それくらい、二人は仲良さそうに見えてた。あとほら、私とキルアももう友だちじゃん」
「ええ……」
「何でゾル家はみんな私と友だちになるのに否定的なの?」

イルミといいキルアといい! ぷんすか!
多分友だちって言えるのミルキだけじゃないのか。いやあれはもしや……ゲーム仲間……? えっつら……。
投げやりかつめんどくさそーに「そーだな」って頷かれたけど、それ追い打ちかけてるだけだからなキルア!

「とにかく! いらない心配はしなくていいよ、考えるのは大事なことだと思うけど。とりあえず私も、ゴンたちが来るまではちょこちょこ顔見せるから」
「どうせならなんかお菓子持ってきてくれよ。俺ここ入ってからチョコロボくん食えてないんだよね」
「それはさすがに。私も無駄にイルミたち怒らせたくないんで」
「ちぇ、ケチ」

もう一度キルアの頭を軽く小突くと、繋がれたままの足で器用に膝蹴りをされた。小憎たらしい子供である。

「年下のくせに……」
「身長は大して変わんねーだろ」

いらっ。
やっぱりキルアは本当に、ゴンとは違う方向で年相応だ。ここは私が大人にならなきゃな……なんてったってキルアは小六もしくは中一。私は高三。学校行ってないとなんか忘れるけど、年の差は結構大きいのだ。
だいたいヒソカと比べたらキルアなんて全然可愛いもんだし。うんかわいい、キルアはかわいい。よし大丈夫。

「じゃあ、私はそろそろ戻るね。イルミにあんま長居するなって言われてたし」
「おー、兄貴に既成事実作られないよう気を付けろよ」
「ほんっとマセガキな……」

呆れたように返せば、にししといたずらっぽい笑みを向けられる。

まあ、なんにせよキルアが一応は元気そうでよかった。
独房から出つつ、先輩にメールを送る。「今日、キルアに会えました。私に膝蹴りいれるくらいには元気でしたよ」と。
自分の部屋へ辿り着く頃に返信がきて、そこには了解の言葉と「レオリオが試しの門を開けられるようになったよ」との報告があった。加えて、ゴンが全快したことも。
なら、もうすぐ四人は試しの門を抜けて、敷地内に入ってくるんだろう。

たった二週間でも、もう随分と長い間タカト先輩と会っていない気がした。
ふんふんと今までを振り返ってきて、気付く。過去のクルタ族のとこに行っていた、私にとっては一週間を除けば、私と先輩は約二年、ほとんどずっと一緒にいたんだ。

「二週間も離れるなんて、初めてかあ」

先輩も寂しがってくれたらいいのにな、なんて。そんなことをぼんやりと考えた。




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