試験はすべて終了。最終試験の不合格者はキルア。
第287期ハンター試験は、ゴン、クラピカ、レオリオ、私、タカト先輩、ヒソカ、ギタラクル、ハンゾー、ポックル、ボドロさん、計十人の合格者で幕を閉じた。
つってもまだ説明会が残ってるんだが。

ハンター協会の人に鎮痛剤をもらい、傷口周りに包帯を巻いた私も説明会に参加する。
先輩に連れられて現われた私に、クラピカとレオリオはびっくり仰天。どう考えても入院レベルだろ! 安静にしていなければ! とめちゃくちゃ心配してくれた。
でも鎮痛剤で痛みはおさまったし、あの火の扱いも徐々に慣れてきたからか、もう七割くらいは治ってきている。念を知らない子がいる手前、しばらくは治ってないってポーズをとっているべきだとも思うが、動く分には問題ないだろう。
とりあえずは「ハンター協会お抱えの医者ってめちゃくちゃ優秀みたいだね〜」で、心配をありがたく受け取りつつも流しておく。

説明会は、クラピカたちが座っている列の一番後ろで聞いていた。先輩はレオリオの一つあけた隣に座っている。
序盤は普通に説明会だったんだが、途中からキルアの不合格はやはり不当である、とクラピカとレオリオが異議を申し立てた。私はそれを、離れた先から眺めているだけだ。
そして途中現われたゴンが、キルアのことでイルミに詰め寄る。

一字一句違わず覚えているわけではないけど、ゴンの発言は原作とほぼ変わらなかったと思う。
イルミを許さない、と。もう、キルアには会わせないと。イルミの腕を、折れてしまうほどに力強く握って。キルアを連れ戻す、と、当然のことのように。
周囲でも一悶着は起きたけれど、ゴンはただイルミだけを見据えていた。そんなゴンに対して顔色一つ変えないイルミは、悪意のこもったオーラを少しだけ当てようとする。でもそれはゴンがすぐさま避けたことでやめたから、放置。

「……、」

ちらりと、ゴンが一瞬私を見上げた気がした。

私がしたことについて、ゴンがサトツさんからどう聞いたのかは知らない。それでもサトツさんはきっと、見たままの事実を伝えたはずだ。
もしかしたらゴンには、私もキルアの敵であるように見えたかもしれない。
その視線に、四次試験の時のような温もりは、込められてないように思えた。

けれどゴンが何かを言う前にネテロさんが話を初め、マーメンさんが続ける。
ハンター証や協会の規約なんかについて、序盤に聞いた話も含めて一時間ほど。

「――ここにいる十名を、新しくハンターとして認定します!」

ゴンの真意を知ることは出来ないまま、説明会は終わった。

レオリオとクラピカ、そしてタカト先輩がゴンの元に集まっていくのをぼんやりと眺めてから、メモと筆記用具をしまって私もゆっくり階段を降りていく。
とはいえ、側までは行かない。数段離れたとこで立ち止まる。

「ギタラクル、キルアの行った場所を教えてもらう」
「……やめた方がいいと思うよ」
「誰がやめるもんか」

離れた場所で、背中しか見えていなくてもわかる、ゴンの強い意志。
――本当に、真っ直ぐな子だ。危うい子だとも、心底思う。

「キルアは俺の友だちだ! 絶対に連れ戻す!」

無表情のままのイルミが「後ろの三人も?」と問えば、先輩たちは当然だと頷いた。いつの間にと驚くゴンを眺めながら、机に軽く体重を預ける。ずっと立ってるって結構きつい。
イルミはちらっとこっちを見やって、そして、いいだろうとキルアの行き先を告げた。

「キルは自宅に戻っているはずだ。ククルーマウンテン。この頂上に、俺たち一族の棲み家がある」
「ククルーマウンテン……」
「ミズキなら場所、わかるんじゃない」

唐突に名前を出されて、びっくりする。
そこで初めてゴンとクラピカとレオリオは私に気付いたようで、勢いよく三つの顔が向けられた。反射的に誰とも視線を合わさないよう目を逸らしてしまい、何やってんだと自嘲する。
ため息交じりにゆっくりとまばたきをして、まあわかるけど、とだけ答えた。

「なら教えてあげれば? 友だち、なんでしょ。そいつらとは」

何なんだその言い方。

ぱちくりとまばたきをして、けど私が口を開くより早く、イルミは部屋を後にしてしまった。
数秒悩んでから追いかけようとした私を、ゴンの声が引き止める。
そっと深呼吸をし、顔を向けた先。ゴンの瞳は、揺れているように見えた。不安、疑心、それでも信じたいと願う気持ち。いろんな感情がごちゃまぜになった、迷子のような瞳。

「ミズキは、……あいつと、どういう関係なの?」

問われた言葉に、黙り込む。
私はイルミを友だちだと思っていた。でも、イルミは私を友だちだなんて思っていない。その状況で友だちだよなんて言えるほど、私の神経は図太くない。
かといって、イルミに片想いされてまーすとか言えるはずもないし。
なんて答えるのが適当なんだろう。悩む私を、ゴンは不思議そうに見上げている。
結局どう答えればいいのかはわからないまま、曖昧な笑みを浮かべた。

「私もわかんない。でも、大切な人……かな」
「それは、キルアより?」

視線の中へかすかに滲むのは、敵意に似たものだ。

「ゴンは、私がキルアの敵みたいに、見える?」

わかんない、とゴンは正直に答えてくれた。ここで取り繕わないのが、ゴンのいいところか。

「サトツさんからギタラクルとキルアの話を聞いたとき、あいつを止めたのがミズキだって知って、嬉しかった。でも、キルアを帰らせたのもミズキだって聞いたら、……わかんなくなった」

先輩とクラピカが何かを言おうとしてくれたのを制して、階段を降り、ゴンの頭をそっと撫でる。嫌がられなくて、ほっとする私がいた。

あの時は、そうするのがベストだと思った。原作通りの展開にするために。
身勝手な理由で原作を改変する時もあるけど、ゴンたちにとって必要な出来事はなるたけそのままにしておきたいとも考えている。
ゴンたちがゾルディック家へ行くのは、必要な出来事だ。試しの門を開けられるようになるための修行。ゾルディックについて片鱗だけでも知ること。それはゴンたちの成長に繋がる。
そのためには、あそこでキルアに帰ってもらわないといけなかった。ここでキルアが合格してしまえば、来年のハンター試験にも齟齬が生じる。そこからどう先が変化してしまうかは、私には想像つかない。
キルアには悪いことをしたと思ってはいるし、結局全部、私の勝手な都合だけど。

「ゴンの好きなように考えていいよ。私はキルアも、ギタラクルも、もちろんゴンたちのことだって、大切だと思ってる。そこに嘘はないから」

じゃあまた後でね、とゴンを通り過ぎて扉へと向かう。横目に見えたゴンの瞳は、やっぱり迷子のようだった。

部屋を出てからは廊下を進み、イルミの姿を探す。すぐに見つかったイルミはヒソカと話しているところのようで、声をかければ二人同時に振り向いた。反応がはやい。
ヒソカの顔に恍惚感が残っているあたり、どうやら話は一段落したところらしい。しかし気持ち悪い表情だ。

「やあミズキ、どうしたのかな」
「悪いけど今ヒソカに用はないから。イルミ、手、見せて」
「……手?」
「折れてるんでしょ? 四次試験の時のお礼。治したげる」

きょとんとしながらも差し出された腕に、左手を触れさせる。どういう要領でオーラを練り、変化させれば治るのかは、だいたい感覚が掴めてきた。
数分間火を纏わせれば、ある程度は治ったはずだ。火を消して手を離し、痛くない? と窺う私に、イルミは小さく頷く。

「ところでミズキ、ボクにお礼は?」
「あるわけねえだろ」
「ひどいなあ」

つーかヒソカにはいろいろ前払いしてる気がする、不本意だけど。だからお礼とか今更いらないでしょ。絶対ありがとうとか言ってやんねーって私は決めたのだ。

「で、イルミ。私はゴンたちとあんたの家行くけど、それでいいの」
「来てくれるなら何でもいいよ。俺と一緒に帰ってくれた方が楽だけど」
「タカト先輩とゴンたちも連れてってくれるなら考える」
「それはヤだ」

ですよねー。

軽く笑い、じゃあ着いたら連絡すると思うからと二人に背を向ける。
先輩たちは今頃、パソコンルーム的なとこで電脳ページをめくってる頃かな。あでもパソコンルームどこにあるんだろう、まず案内板的なものを探さなきゃ……と数歩進んだところで、はたと気付き振り返る。

「ヒソカ、みんなからの連絡、ちゃんととりなよ」
「? なんだい、いきなり」
「言ってみただけ。じゃね」

今度こそ背を向けて、歩きだす。

ハンター試験はほんとにこれで終了だ。振り返ってみればあっという間だった気もする。
ゾルディック家で少し過ごしたら、旅団のみんなのとこに帰ろう。
早く会いたい。みんな元気かな、元気だろうけど。そう考えるくらいには、私はホームシックになってるみたいだった。ちょっぴり複雑。

シャルとコルトピ、フェイタンに「試験終わった。私と先輩、合格したよ」とピースの絵文字つきでメールを入れて。
パソコンルームにいたゴンたちと、合流した。




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