私と先輩との試合が終わり、第三試合はヒソカ対クラピカ。 これは原作通りヒソカがクラピカに何かを告げた後、ヒソカの参った宣言で終了。その時のクラピカの表情を見て、原作ほどではないにしろこれ多分旅団のこと恨んでんな、と確信する。あの時に可能性をゼロに出来なかった自分の非だ。ため息が漏れる。 ついでに後で私とヒソカが戦うことになったのもため息。ヒソカの笑顔が花も咲かんばかりのものだった。 第四試合はハンゾー対ポックル。 これも原作通り、ハンゾーの勝利で終わった。 そして、第五試合。 「ミズキと戦えるなんて、嬉しいよ……」 「私は嬉しくねえけどな」 ヒソカと相対すれば、審判が開始を告げる。 どうせ余裕綽々の棒立ち姿勢で私を待つんだろうと思っていたけれど、予想外にもヒソカは開始と同時に床を蹴り、私へと迫ってきていた。 ゴンといい先輩といいヒソカといい、気付けば眼前に迫ってきすぎじゃない? 私がぼけーっとしてんのが悪いのか? これでも気ぃ張ってるつもりなんだけどなあ。 繰り出されたのは長い足、かっこ嫌味かっこ閉じ、での蹴り。身長差を利用してその下をくぐって躱し、そのまま身を屈めて足払いをする。当然、ヒソカは軽快な動きで跳躍しそれを避けた。 「その刀は使わないのかい?」 私の背後に着地したヒソカにすぐさま振り向けば、す、と指を指される。背負ったままの、ノブナガにもらった刀。 「使って欲しい?」 「そうだなァ、その方が、楽しそうな気がするんだよね」 「じゃあ使ってあーげない」 ちらりと視界に映ったのは、やや眉根を寄せた先輩の表情。 ヒソカと戦ってる私を心配してくれてんのかな! きゃー! とか希望的観測をしてみたけど、そんな妄言はすぐにかき消えた。 えっなんか先輩怒ってない? こめかみの辺りに怒りマークが見える気がする。あとオーラがまた微妙に怖い。 もしかしてあれか、遊んでんじゃねーよ的な……? うわあすみません真面目にやります。 今度は私からヒソカへと向かい、申し訳程度のフェイントを織り交ぜつつ背後に回って裏拳を顔面へ。 ぱしりと掴まれ反対側へと投げられたけれど、着地したと同時に今度は私がヒソカの腕を掴み返し、そのまま勢いでヒソカを上空に投げた。ついでに脇腹へ蹴りを一発。これはちゃんとヒットした。おい嬉しそうな顔すんな。 いいぞー! がんばれー! というレオリオの声援が耳に届く。なんだかんだでレオリオとはなかなかちゃんと話す機会がとれなかったけど、それでも応援してくれるんだ。ありがたい。 ていうかさっきの私対先輩に比べて応援しやすいのもあるのか。 「よそ見なんてしてていいのかい」 レオリオを見やりつつ一旦体勢を立て直していたところで、ヒソカがにまりと笑う。楽しそうに人差し指だけを立てて、くるくると遊ばせている動き。指先から伸びるオーラは、さっき掴まれた腕にべったりと貼り付いていた。 伸縮自在の愛のそういうとこほんとめんどいよね。飛ばしてくるオーラを避けてても触られたり触ったりしたらアウトとか。 ま、いいんだけど。 「うん、大丈夫だよ」 タカト先輩を見習い、にこりと微笑む。 そして、隠で見えないようにした火を左手に灯した。ついでに、ご丁寧に右手を使ってオーラで文字を書いてやる。ヒソカ視点だと反転してるけど頑張って読んでくれ。 ――細胞を活性化させる炎だって説明、したっけ? これね、後で気付いたんだけど、オーラの活性化も出来るんだよ。 活性化しすぎたオーラは、はたしてどうなるのか。それがガムやゴムの性質を持ったオーラなら、なおのことどうなる? 私の腕に貼り付いていた伸縮自在の愛は、ぱちんとシャボン玉のようにふくれて弾けた。全部が全部に使えるわけじゃないにしても、ほとんど除念みたいなことも出来るんだからチートって本当にチートです。 ヒソカがびっくりしている辺り、ちゃんと凝をしててくれたんだろう。 「タネも仕掛けもございませんよ、っと」 「本当、ミズキはボクを楽しませてくれるね……」 「そりゃどうも」 ていうかこのやりとり、念を知らない子には意味不明だよなあ。うっかりうっかり。 ともあれこれで一つは手を封じられた。攻勢あるのみ! と刀を抜いてヒソカへと振るう。使わないっつったのは誰だよとか言わないでキルア。 「ほんの数日目を離しただけで、見違える程に成長する」 うまいこと刀を躱しつつ、ヒソカがぺろりと舌舐めずりをする。 「ああ、もう、まったく。今すぐ、食べちゃいたくなるよ……!」 いやあ気持ち悪い! ズキュゥウンやめてください! やめろ! 怖いわ! 見たかヒソカ今の先輩の顔! すっげえ表情だったよ!? あんな顔の先輩初めて見たわ! 「だからっ、お前のそういうとこが気持ち悪いんだ、って!」 鳥肌スタンディングオベーションになりながらも、刀の峰で一発殴っておく。避けれただろうに避けないとこがまたやんなるこの人。ほんともう。 「これ以上やるなら切り刻んだ上で潰すけど! いろいろ!!」 「それは困るなァ」 「じゃあまいったしろください頼むから!」 ゼェハァと謎の疲労感に襲われつつ叫べば、仕方ないなあなんて頷きながら、ヒソカは不意打ちで私の額にキスをしてきやがった。 瞬間に今度は左手で殴りかかろうとした私の手をひらりと避け、まいったと口にする。 「勝者、ミズキ!」 「なんだろうこの試合に勝って勝負に負けた感」 解せぬといった表情でヒソカを睨む。なにより主人公組および先輩のいる辺りからの気配がめちゃくちゃ刺々しいんだが。私はあそこに戻らないといけないのか? ぶすくれればいいのかげんなりすればいいのかわからない私に対して、ヒソカは満足そうだ。睨め上げれば、頭をくしゃりと撫でられる。 めっちゃ子供扱いされてる気がする。 「額へ口付ける意味を知っているかい?」 「知らんわ」 ぺっと吐き捨てるように答えれば、ヒソカの顔が寄ってきて耳打ちされる。 「祝福、だよ」 ぽかん、とアホ面を晒してしまった。 祝福。……祝福? 何に対しての祝福なのかがまったくわからないまま、背を向けたヒソカを呆然と見送る。普段だったら何であれお前に祝福される覚えはねえで済ませていたはずなのに、何故だか今はその言葉がどうにもひっかかって、私は自分の額に指先を触れさせた。 ← → 戻 |