結局は他の受験者と鉢合わせることもなく、四次試験は残り一日となっていた。
それまでは一日のほとんどをゴンと組手をして過ごしていたから、なんというか原作よりゴン、強くなったんじゃね? 感がある。大丈夫かなこれ。

そして、今日。
他のみんなはどうしてるかな、とのゴンの言葉に、じゃあスタート地点に戻ってみようかと提案した。頷いたゴンと共に、木と木の間を跳びながら走って行く。
最終日に、ゴンとクラピカとレオリオが合流することは当然覚えていて。ゴンが、誰かの役に立ちたいと思っていることも、知ってたから。
そう思っていた気持ちは、私と居たからって変わってないだろう。元々のセンスとかはさておき、大概のことで私はゴンより先を進んでいる。ゴンのその気持ちを、満たせてはいないはずだ。

道中横切ったのは、先輩と過ごしたキャンプ地だ。そこで、先輩どうしてるかなと頭の片隅で考える。
大丈夫じゃない、なんてことはないだろう。それでも一度気になってしまえば、そわそわとした気持ちを落ち着かせられない。
ゴンに着いていっても、私が出来ることなんてないしなあ。いややっていいなら全然出来ることあるけど、私がいたらゴンが行く意味なくなっちゃうし。それはダメだ。

「――うん。ごめん、ゴン。私、タカト先輩が気になるからちょっとそっち行ってみる」
「そっか。そわそわしてるみたいだから、タカトが気になるのかなって思ってたんだ」

じゃあミズキとはここでお別れだね、とゴンは立ち止まって笑う。
そんなにわかりやすかったのか、私。なんだか恥ずかしい。

「だね。じゃあまた、船で会おう」
「うん!」

ゴンと別れ、姿が見えなくなった辺りで円をする。
スタート地点に戻ろうとしている、クラピカとレオリオ。そこに向かって行くゴン。離れた水辺に立っているキルア。そしてそのすぐ側に、先輩の気配があった。
……ええ……先輩とキルアが一緒にいるの? なんかびっくり……。

と、とりあえず行ってみるか……と地面を蹴る。
私の足なら秒で辿り着ける距離だけど、わざとゆっくり走りながら煙草に火をつけた。いつものです。
深く、一回吸って、煙を吐く。
やっぱり落ち着く。そう思いながら走れば、ふわふわと煙がなびいた。


 +++
※先輩視点



「タカトせーんぱい、キールアー」

数日ぶりでっすと言いながら、木から飛び降りてきたのはミズキで。
会うのは、置き手紙一枚を残して消えた日以来だ。円で、ゴンと一緒にいるってことはわかってたけど。

「ミズキ。お前、プレート集まったの?」
「え? おう……先輩から聞いてないの? キルア」
「聞くって、何を」
「俺らもさっき会ったとこなんだよ」

苦笑気味に肩を竦めれば、ミズキはなるほどと小さく頷く。
ふと、旅団のみんなといた時に感じた煙草のにおいが、鼻をかすめた気がした。

「私と先輩は、自分のプレート一枚で六点分扱いなんだ。そういう受験者がランダムにいるって、試験官が説明してたっしょ?」
「はあ!? それがお前らだったってことかよ、ずっけー」
「そう言われても、なあ?」

キルアの反応はもっともだ。俺だって自分以外の奴がそうだったら、ずりいなあって感じると思う。
とは言え試験官なりミズキなりがそう言いはしても、実際のとこ俺とミズキはもう合格しちまってんだし。仕方ないだろ。

「てことはタカトもミズキも三次試験は余裕で合格か。はーつまんね、お前らもっと焦ったりとかしねえの?」
「キルアも余裕こいてんだろ」

こいつ、割と始まってすぐくらいにプレート集め終えたって言ってたと思うんだけど。
まあなーと笑うキルアから、不意にミズキへと視線を移す。すると、さっきまでは苦笑していたはずのミズキが、かすかに顔を顰めていた。
どうしたのかと問いかけようとして、けれどそれより早く、ミズキがぼそりと何かを呟く。

「――最終試験は、そうもいかないだろうけど」

キルアにも音だけは聞こえたんだろう。何か言ったか? と問いかける声に、一転してミズキは何でもないよと笑みを浮かべる。

けれど、俺には聞こえていた、その言葉。
やっぱりミズキは、試験内容を知っている……んだと思う。というより、試験に限らず、これから起こること――未来を、知っているみたいだ。
でもそれについて、ミズキは俺に話そうとしない。頑なに。

何度も思ったことだ。俺はミズキをこの世界でたった一人、唯一の同じ人間、同じ世界の奴だとして、大事に思ってる。この世界で二年近く過ごした、絆みたいなもんも、あると思う。
ただの鈍くさい後輩だったあの頃よりは、一緒にいて楽しいし、守ってやりたいと思ってる。
それくらい、俺はミズキが大切で、大事だ。旅団のみんなにも、イルミにも、クラピカにも、誰にも負けないくらい。

でも、ミズキはそうじゃねえの?
だから俺に、何も話さないのか。俺が信用出来ないから。ミズキにとっての俺は、ただの先輩でしかないから?
だとしたら、俺、すっげえ嫌なんだけど。というか、何て言うんだろう、この感情は。

……かなしい?

「――ミズキ」
「え、あ、はい?」

声をかける。同時にミズキの右手を握れば、ミズキはおろおろとしながら俺を見上げた。

わかってる。ミズキだって、俺を大事にしてくれている。俺を優先してくれることは多いし、時々ミズキは、本当に嬉しそうな顔で俺といてくれている。
だけどそれは、イコール信用されている、とはならない。
念を覚えた今ならわかる。俺はミズキより弱い。自分が強い自覚はあるけど、それでも一対一で戦えば、俺はミズキに勝てないだろう。先輩として不甲斐ない。でも事実だ。

だからミズキは、俺に相談しないのかもしれない。
理由はなんにせよ、ミズキがもし一人で苦しんでるんだとしたら、俺は嫌だ。助けになりたい。俺を頼ってほしい。
だって、俺は、お前の先輩だろ?

「この試験終わったら、やっぱりちょっと、話そう」
「え、……え?」

見つめ合う俺とミズキを交互に見ながら、間に立つキルアだけが告白? 告白か? なんてにやにやしていた。




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