さすがの回復力と言うべきか、翌日の夕方にはゴンはもう元気にそこら辺を走り回っていた。うーん人外レベルの自己治癒力。私もあんま人のこと言えないけど。
自分が万全の状態であることを確認し終えたんだろう、駆け寄りながら「組手の相手して!」とゴンがぶんぶん手を振ってくる。

「え、お、おう。私でよければ」

突然のことに動揺しつつ、腰を上げる。
今のゴン相手に組手をするとして、私はどれくらい力をセーブすればいいんだろう。手加減するのって難しいんだよなあ。まあ適当に流せばいいか。

「ずっと思ってたんだけど、ミズキって強いよね」

否定すべきかとも思ったが、頷いておく。
残念なことに、そしてありがたいことに、強いことは事実なのだ。

組手を始めてからいくらか経った頃、ゴンはどことなく真面目な雰囲気で私を見据える。

「ヒソカとミズキだったら、どっちが強い?」

ゴンの拳を受け流し、左脚でゴンの横っ腹に軽い蹴りを入れながら、ふむんと考える素振り。
なんか前もおんなじこと考えてた気がするけど、やっぱり単純な戦闘力だけで言えば私が上だろう。腕相撲でもオーラの総量でも勝てる自信はある。
でも、ほんっと何回もこれ自分で言うの地味に悲しいんだけど、戦略面や戦闘考察力、知力で言えばヒソカが上だ。かなしいかな、私はあいつとガチで戦った場合、フェイントに引っかかりまくる自信がある。
だとしても、世の中にはゴリ押しという言葉があるわけで。まあ十回戦ったら六〜七回くらいはゴリ押しで勝ち越せるだろう、というのが私の予想だ。
いわば私は、チート級の強キャラをレバガチャで扱う、って感じの人間なわけである。

そんなわけで総合していえば、まあ一応ヒソカより強いって言ってもいんじゃね? ってところだ。圧倒はしないけど。
だいたいそんな感じ〜、と以上を軽くまとめた言葉で返せば、ゴンはきらきらとまぶしい瞳で私を見上げてくる。

「ミズキってやっぱりすごいんだね!」

はいかわいい。

一旦間合いをとったゴンは、何かを仕掛けてくるつもりなんだろう。
追いかけるのも面倒なのでその場にとどまり、ちょいちょいと人差し指だけでゴンを手招く。
にぃっと楽しそうに笑ったゴンは一瞬しゃがみ、すぐさま地面を蹴ると一気に間合いを詰めてきた。さすがというか、ゴンのバネには本当に感服する。
その勢いで繰り出してきたパンチを受け流すか受け止めるか迷ったけれど、左手でゴンの手首を掴み、受け止めることにする。そしてゴンの腕を引き、右手を鳩尾に埋めようと動かした。けれどそれは綺麗にかわされる。何で空中でそう動けるかね。

「でも惜しい」
「え、うわあっ」

すっと膝を曲げ、巴投げのようにゴンを私の後ろへ放り投げた。
またもやゴンは空中で姿勢を立て直し着地まできめてくれたけど、勢いに負けて尻餅をつく。

「まだやる?」
「もちろん!」
「治ったばっかだってのに元気だねえ……」

私はちょっと疲れてきたよゴンくん。おたばこ吸いたい。

「じゃあ今から十分経つまでに一発、ゴンが私に入れられなかったら今日は終わりで」
「えー!? こんだけやっても全然当たらないのに!」
「ヒソカに一発入れるよりかは、簡単だと思うよ?」

途端、黙り込んでしまったゴンにそっと苦笑を漏らす。
組手を開始してから、一時間。私はゴンに一発も攻撃を当てられていない。全て躱すか、受け流すか、受け止めるかしている。かなり手加減しながら、だ。
トリップ特典によるチートな強さもあれば、旅団のみんなに修行をつけてもらったから、って理由もある。
だとしても私は不意打ちに弱いし、あんまり物も考えていない。ゴンの機転の良さを考えれば、一発くらいは有り得るだろう。

「ここで諦めて、立ち止まる?」
「――っまさか!」

それでこそゴンだ。勢いよくあげられた顔には、強い意思が込められている。
笑みを浮かべ、今度は真面目に構える。

「一発入れらんなかったら、晩ご飯とりに行くのゴンの役ね」
「じゃあ一発入れられたら、ミズキ、後で一緒に水浴びしようね!」
「あれえゴンらしからぬ発言が聞こえた気がする!」

いやむしろゴンだからこその天然発言? えっ待ってお姉さんきみのことがよくわからない。
なんておろついている内に、決まりね! と楽しそうに笑ったゴンは地面を蹴って私の目前へ。

さすがにゴンとはいえ、一緒に水浴びはどうなのだ。十二歳……小六……私の四つ下……? セーフか? いける気もする?
弟みたいなもんだし、年齢的にもキャラ的にも。キルアはちょっとアウトな気がするけど。いやでもクラピカはいけるな。コルトピもいける。ならゴンもセーフか?

うんうん考え込んでいたせいで、眼前に迫っていた拳への反応が一瞬遅れた。うおぅとブリッジの要領でなんとか避けたが、腰が痛い。

「あ、夜ならほぼ見えないしセーフか?」

地面に両手をつき、蹴り上げた足で頭上のゴンを軽く蹴飛ばす。体勢をすぐに戻せば、満面の笑みを浮かべたゴンが今度は蹴りを繰り出してきていた。
ねえ君、なんかさっきよりも本気度上がってない?

「オレ、結構夜目きくんだよ」
「なるほど、ゴンの視力なめてた」

そんなこんなで、組手を続ける。
でも残念でしたゴンくん、もうすぐ十分です。水浴びはまたの機会におあずけだね!
あと一分もないだろうと意識をちょっとずらしたとこで「そ、りゃあっ!」とゴンの声が辺りに響く。
え、と思うのも束の間。眼前に迫っていたのは、靴底。

この芸当見たことあるわーと思いながら冷や汗混じりに身体をひねる。けれど、鼻の頭を靴底がかすめていってしまった。地味に痛い。
蹴り出した足の勢いでブーツを脱ぎ、距離を縮めてきた、と。ネテロさんとボール取りをしてた時にやった芸当だ。実際に目の当たりにすんのはこれが初めてだが。
まさかそんなんやってくるとは思わなかったんだ。油断した。

ピピピ、と設定していた携帯のアラームが鳴る。
鼻の頭をさすりさすりアラームを止めれば、目の前でゴンがにこにこと天使のような笑顔を浮かべていた。
……待て、果たして本当に天使なのか? やだよ私腹黒ゴンくんなんて。解釈違いの極みだよ。ゴンが腹黒になるくらいならフェイタンが煙草すぱすぱ吸いまくってた方が五億歩マシだわ。

「はー、汗かいたね! ミズキ、水浴びしに行こう!」
「……ソウダネ……」

うん、気のせいだ。気のせいってことにしよう。したい。
あれだなこれ、ゴンの笑顔が若干アレな感じに見えるのは日が落ちてきたせいだな。うんそうだそうに決まってる。私は認めないぞ! 絶対認めないからな!
ゴンは確かに結構倫理観というかあの辺りがいろいろアレな子ではあるけど、それでも私にとっては可愛い天使なんだよ! そこんとこ神様、よろしくお願いしまあす!!




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