ご飯を食べ終えた後、ゴンはゆっくりと深い眠りへ落ちていった。ヒソカに殴られた傷は治したにしても、まだ毒は残っているし疲労も大きいはず。ほとんど気絶するみたいに寝落ちてたのは、身体が休息を得て、回復に努めようとしたからだろう。
鞄から取り出したタオルケットをかけてあげて、そっと頭を撫でる。
ゴンが受けた毒は、筋弛緩剤だ。今の私には、その毒を除いてあげることは出来ない。
まあゴンの自己治癒力なら、ちゃんと食べて寝てれば明日明後日辺りには動けるようになるだろう。今だって喋るくらいは出来てるんだし。なんならこの子、打たれたすぐ後でも動いてたし。

「残り、四日か」

ゴンがクラピカたちと落ち合うのは、確か試験最終日だったはず。つまりあと三日はフリーだ。
タカト先輩なら心配は無用だろうし、キルアにも手を貸す必要はない。イルミとヒソカには今会いたくない、というかすまんが思い出したくもない。
とりあえず、この三日間はゴンについていよう。万一他の受験者とばったり会ってしまうようなことがあったなら、私がいた方が安全だろうしね。ないとは思うけど。

さてさてさーて、と気持ちを切り替えて鞄から煙草を取り出す。ゴンには煙草バレしてしまったことだし、さすがに目の前で吸う気にはなんないけどちょっと離れたとこで数本吸っておこう。副流煙を吸わせるわけにはいかないので、風下に移動して。
と、立ち上がろうとしたとこで、くい、と何かが服にひっかかった。木の根にでも引っかけたかなと目線を下げた私は、そこで小さく笑う。
木にもたれて眠っているゴンの片手が、しっかりと私のスカートを握りしめていたからだ。
これは、立てませんなあ。
煙草を吸うことは諦めて姿勢を直し、ゴンの頭を太ももの辺りにのっけて横たわらせる。タオルケットをかけ直し、私は木の幹にゆっくりもたれた。

「ほんと、ゴンはかわいいなあ」

つんつんと跳ねた頭を撫でながら、逆の手で携帯をいじる。

旅団のみんなは、元気にしてるだろうか。メールはちょくちょく色んな人から入ってくるんだけど、電話をかけてくる人はいない。ちょっと切ない。
あとフィンクスは私には何も連絡いれないくせにタカト先輩にはメール送ってるってどういうことなの? あの二人マジで何なの? どっちに嫉妬したらいいのかわかんなくなるんでそういうのやめてください。いいけどさあ!

ぽちぽちと溜まっていたメールに返信していたら、唐突に携帯が震えた。メールかと思えば着信で、タイミングよすぎかよと微妙な笑いが滲む。
相手はクロロで、コルトピならワンコールで出たのにな〜と思いつつ、数秒画面と睨めっこをしてから通話ボタンを押した。

「もしもし?」

起きないだろうとは思うけど、一応ゴンを気遣って小声で話す。
まさか出るとは思わなかったのか、クロロは一瞬の間をあけてから「ミズキか」と窺うように呟いた。

「私の携帯に私以外の人は出んでしょうよ」
『一回かけたらヒソカが出たぞ』
「いつの話!?」

三次試験か!? 三次試験の時か! あいつンなこと一言も言ってなかったぞ言えよ!
ていうかタカト先輩の時といい、人の携帯にかかってきた電話を勝手に取るなっていう……次会った時殴っていいかな……。

「うん……いやまあそれは初耳だけどいいわ……。なにか用事?」
『特に用事があるわけではないが』
「何でかけたんだよ」
『……その様子なら試験は順調のようだな。タカトも一緒か』
「今は別行動中ー」

ほう、と興味深そうな相づち。お前はタカトから離れなさそうなのになと続けられ、そりゃまあ許されるなら先輩とずっといたいけど、と内心ぼやく。
三次試験は普通に多数決の道がめんどかったし、今はやっぱ他の子のことも気になるし。

『まあ、元気ならそれでいい。……それよりもミズキ、お前は何で俺にだけメールを返さないんだ。シャルたちにはちゃんと返してるだろ』
「だから電話してきたんかい」

ついさっき送ったのは、シャルへのメールだ。シャルがそれを受け取ったとこを見るなり聞くなりして、わざわざ電話してきたと。
幻影旅団の団長って暇人なの?
返すつもりではいたんだよ、本当か、二割くらい、それは嘘と言うんだ、なんて言葉の応酬をしながら責められている気もするが、私の意見も聞いてほしい。
クロロのメールは、本文がやたらと長いのだ。私と先輩の身を案じる言葉から始まり、以降はSNSか日記帳にでも書けと言いたくなるような文字がずらっとワード文書一枚以上続く。なげーわ。用件は短くまとめてください。
だから返信するのめんどかったんだよ。

『とにかく、改めて言うことでもないとは思うが……頑張れよ』
「そりゃどうも」
『それと、試験が終わったらさっさと帰ってこい』
「あ、それは無理。終わったらゾル家行くことになったんだよね」

脅されてな。

『ゾル家――ってゾルディックか!? まさかお前、本気でイルミに嫁ぐつもりじゃ』
「んなわけねーだろ」

じゃあ何でだとクロロの声は続いていたが、めんどい気配を感じた私は「充電やばいから切りますねー」と携帯を耳から離す。
シャルの携帯がそう簡単に充電切れするわけないだろとかなんとか聞こえてきたけど、問答無用で通話終了ボタンをポチーだ。すまんな。

まあでも、ゾル家訪問もさっさか切り上げて、早めにみんなのとこに帰るようにしなきゃなあ。
なんだかんだでクロロも心配してくれてんだろうし。私が旅団のみんなに早く会いたいのも、事実だし。

「……ん、ミズキ……? 誰かと話して、た……?」
「っごめん、ゴン、起こしちゃった?」

もぞもぞと身をよじって、うっすら開いた目でゴンが私を見上げる。
つ、疲れてるだろうに、しょうもないことで起こしちゃって申し訳ない……本当にごめんゴン……クロロはあとで叱っておくからね……。

「ううん……ミズキが楽しそうだなあって、思って、」
「うん?」
「俺、楽しいこと……すきだから」

――やだこの子寝ぼけてる! かわいい!
ウッもうゴン可愛すぎ無理……持って帰る。持って帰らせてほしい。責任もって一生愛でるからあ!

だがしかしクロロと話してたのが楽しそうだってのは遺憾の意。

「話してたのは、ミズキの……家族?」

へにゃりと、寝てんのか起きてんのかよくわからない表情でゴンは笑う。
その額を軽く撫でてから、ちょっとの間をあけて、私も笑みを浮かべた。

「……うん。私の、家族だよ」

俺もいつかミズキの家族に会いたいなって、むにゃむにゃ呟いたゴンは、また眠りに落ちる。
さすがにそれはおすすめしづらいなあ、と私は苦笑するしかなかった。




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