イルミと別れ、タカト先輩が来るのをぼんやりと待つ。
いやあ怒ってくれても構いませんとか言ったけど、マジで怒ってたらどうしようね。謝るのも変な話だし、かといって本当のこと言えるわけでもなし。

炎に変化させたオーラで数字を描いていれば、一つの気配が一直線にこちらへと向かってくる。
先輩だ、とすぐに気が付き、炎を消して顔を上げた。
軽やかに木から木へと飛び移っていた先輩は、私の視線に気が付くと軽く手を挙げた。少しだけほっとして、私も小さく手を振る。
先輩は正面に着地した後、一瞬だけ目を丸くさせてから、取り繕うように微笑んだ。

「ごめんな、待たせて。スタート遅かったから」
「いえ、大丈夫です」

二言三言、言葉を交わしてみたけど、先輩は船でのことを蒸し返すつもりはないようだった。
再び、ほっとする。

一息つき、早速修行でもすっかと二人で堅の状態を維持していたら「ミズキはもう発、決まったのか?」と先輩が問いかけてきた。
決まった、と断言は出来ないけれど、こういう感じかなという案は浮かんでいるし、その内いくつかはもう実際使えるようになっている。

「一応……五行をイメージした感じでやろうかな、と。まだ細かいとことかは決まってないですけど」
「五行ってーとあの、木と水とー……みたいなあれか。すげえな、俺まだ全然決まってねえよ」
「操作系ですから、やっぱ人や物を操作する感じですよね。あとは……気候とか?」

気候は無理だろ、と先輩は吹き出しているけど、多分先輩のオーラ総量だったらいける気がする。空との距離的に放出系の能力も要るにしても、操作系と放出系は相性もいいし。

「シャルには愛着のあるものを媒介にするといい、って言われたんだ。でも俺、音楽プレイヤーくらいしか持ってねえしさ」

操作系の発、かあ。
操作系のキャラたちはどんな能力だったか、脳内に思い浮かべていく。
イルミは針で刺した相手を操作する。一つの命令で動く自動人形、みたいな感じだったっけか。確か数十人を同時に操作できたはずだ。
シャルはアンテナを刺した相手を操作する。アンテナは二本。自動じゃなくて、ロボットみたいにシャル自身が携帯で操作する。あとは自分にアンテナを刺しての自動操作。
蟻編でシャルが戦ったキメラアントも操作系だったはずだ。こちらもアンテナを刺し、ラジコンのように対象を操作する能力。
あとはカルトも操作系だったっけ? 紙を操作してるのかな、あれは。放出系か変化系の可能性もあるような気がするけど。そんでスクワラが飼い犬の操作、ヴェーゼがキスした相手を一定時間操作。
ああ、そういえば一番特徴的なのは、モラウさんかもしれない。あの人は人や動物ではなく、煙をオーラで覆って操作している。これは私が参考に出来そうだな。

他にも色々いるけど、参考に出来そうなのはこの辺りか。
こう考えると、イルミを除けば大人数を一斉に操作、って能力の人はあまりいない気がする。そのイルミでも数十人が精々だ。やっぱりそこら辺はオーラの総量やらが関係してんのかな。

「俺、音楽聴くのは好きだけど、そんなの使い道もわかんねーし」

もういっそシャルの能力パクろうかなあ、なんてぼやく先輩に苦笑してから、ぽつりと呟いてみる。
多分実際にやるとしたら、これは操作系と放出系の複合技になるんだろうかと思いながら。

「その音楽プレイヤーに入ってる曲にオーラをのせて、聴いた人を操作する、とかは?」
「聴いた人……」
「聴覚がない相手には効かない気もしますけど、こう……一種の催眠術みたいな。プレイヤーにスピーカーを繋げれば、不特定多数を一気に操作とかも出来そうじゃありません?」

先輩の持つ音楽プレイヤー自体が能力の起点となっていれば、大きなスピーカーとかでその音楽を流したとき、どうなるのか。うまくいけば、あるいは下手をすれば、街一つを操作することも不可能じゃないはずだ。
それくらい、先輩のオーラ総量はチートレベルなのだし。
場合によっちゃ人だけでなく、音が聞こえる範囲にいる、音を聞けるものなら全てを操れるかもしれない。

ここまで考えて、いやそれめちゃくちゃ怖くねえ? と背筋が震える。
でもその恐ろしさに気が付いたのは、先輩に全てを伝えてしまった後のことで。
タカト先輩は鞄から取り出した音楽プレイヤーをじっと見つめながら、妙にきらきらした目を私へと向ける。

「いいな、それ」

やばい、もしかしたら独裁者生んだかもしれない。


 +++


意気揚々とイヤホンをつけて音楽プレイヤーをいじりながら、曲にオーラをのせる練習をしている先輩。なんかもう怖いしか言えない。
深く考えないようにして、私もやや離れた場所でオーラを変化させていた。

五行思想。すべての物は、木・火・土・金・水の五種類の元素から成っている、という説だ。陰陽師やらなんやらのあれそれで、名前くらいは知ってる人も多いと思う。
あとはゲームの属性とかね。
木は春、樹木の成長。火は夏、灼熱さ。土は季節の変わり目、万物の育成・保護。金は秋、金属のような堅固さ。水は冬、命の泉。各々がそれらを象徴し、兼ね備えた性質を持っている。

私が三次試験で使ったのは、火の能力。でも性質としては、おそらく木だ。
本来であれば木生火、木が燃えて火になる、という流れ。成長、転じて細胞を活性させる能力を持つのは、木の能力であるはず。
けれど現状は逆転し、火が木の性質を備え、細胞を活性化させる炎となった。

それが、矛盾の正体だとしたら。
木から火、火から土、土から金、金から水、水から木。本来はそうやって一周するはずの五行が、矛盾していたとしたら。
水は金の、金は土の、土は火の、火は木の、木は水の性質を、持っていることになる。
矛盾、あるいは逆転。自分の能力ながらわかりにくいことこの上ねえ。何だこれ。

とりあえず足元の土を掬い取り、顔の前まで持ち上げる。
土は、火の性質を持つことになるはずで。火は夏を象徴し、灼熱さの性質を備えている。……うん、何をすりゃいいのかまったくわからん。
オーラを土に変化させるって割と意味不明だし、土をオーラで覆って操作するにしても、変化系にとっての操作系って確か一番相性悪かったはずだ。出来るのかが謎すぎる。ゴリッゴリの攻撃系火属性ゴーレムは割と見たい気もするけど。

ああもう、私が特質系だったら五行じゃなくて五麟にして、五匹の色違い麒麟を具現化かつ操作! みたいなことするのに。自分で言っておいてなんだけどそれめちゃくちゃかっこよさそうだね!
麒麟Aは治癒・除念、麒麟Bは攻撃、麒麟Cは防御……みたいな分け方するんでしょ? わかるわかる。オタクはそういうことに詳しいんだ。

行き詰まるどころか明後日の方向に向かい始めた思考回路を遮断し、とりあえず今のところは一番楽に使えている炎を左手に灯す。
春を象徴し、樹木の成長という性質を備えた木、の性質を持つ火。細胞を活性化させ、外傷を治してくれる。
細胞の活性……か。
傷を癒す炎が矛盾なら、盾で攻撃するのも矛盾か。矛盾だけにな。

「すげえな、熱くねえの?」
「わ、先輩。大丈夫ですよ」

こっちは義手なんで、の言葉を飲み込み、背後からぽんと肩を叩いてきた先輩に笑みを向ける。

「ただの火、じゃねえよな。なんか能力あんのか?」
「ええと、さっき話してた五行の中の、木行の性質を持った火なんですけど……まあ一言で言えば怪我を治す炎です」

説明がめんどくなったのではしょり、目に付いた先輩の腕にある切り傷へ炎を当てる。百聞は一見にしかず、だ。
タカト先輩はうわっと驚きの声をあげたものの、その炎に熱さがなく、傷がみるみる治っていくのを目の当たりにして、感嘆のため息を吐いた。

「念って、すげーんだな……」

私には原理がわからないけど、とにかくそうなる。
これは私と、そして先輩とがトリップ特典で強くなってるから、ってのもあるんだろうけど。

綺麗さっぱり治った腕をしばらく見つめて、先輩は「俺も頑張んなきゃなあ」と頭をぽりぽり掻きつつ、元いた場所へと戻っていった。
その背を見送り、今日はここまでにしよう、と炎を消す。
攻撃は発がなくても事足りているし、ここぞという時の必殺技が必要になるのは、まだまだ先の話だ。もうしばらくはのんびりペースでいいだろう。

葉っぱと木の枝を集め、晩ご飯用に、と釣った魚を焼き始める。この湖に住む魚は比較的普通の形状でよかった。
もしかしたら煙で他の受験者に居場所がバレるかもしれないけど、バレたとこで私と先輩の二人ながら問題ないだろうし、気にしなくていい。
パチパチと燃える火からあがる煙を眺めながら、五行とは別の能力を作ってもいいかもなあとぼんやり。もちろんモラウさんリスペクトで。私も煙草吸うし。使ってるジッポライターには愛着もあるし。
ただやっぱり操作系なんだよなあ、って肩を竦めたところで、ふと視線を空の向こうにやる。

気にかかったのは、ゴンのことだ。
ヒソカと対峙した後のゴンが落ち込んでしまう展開は、覚えていた。けれど、それが具体的に何日目だったかまでは思い出せない。
ゴンの居場所は、円を使えばすぐにでも見つけられるけど。見つけたところで、私にどうこう出来るわけじゃないしなあ。慰めるのはクラピカがやってくれるし、なんならゴン一人でまあまあ立ち直ってくれるし。

「まあいっか……」

もしも私が必要なら、自然と出会うだろう。その内ふっと思い出すかもしれないし、そん時にまた考えよう。
今はタカト先輩とのんびりするのだ。キャンプは初めてだしね!




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -