※先輩視点



「タカトとミズキさんはどういう関係なんだ?」

約一日が経ち、各々本を読んだりゲームをしたりと過ごしていた頃。
ようやく訊く覚悟を決めたといった様子で問いかけてきたクラピカに、読んでいた歴史書からちらとだけ視線を上げる。

俺と、ミズキの関係。改めてそう問われると、なんて答えたものかいまいちわからなかった。
先輩と後輩。一緒に違う世界へ来た、唯一の存在。仲間。いろいろと言えることはあるはずなのに、それを言う気にはならない。

「別に、学校で同じ部員だったってだけだよ」
「それにしては、何と言うべきか……信頼し合っている、というか、絆のようなものを感じるんだが」

再び、ちらりとだけクラピカを見やる。その表情はわかりやすく、俺を敵視しているみたいだった。
何でかは知らないけどミズキとクラピカは知り合いみたいだし、クラピカはミズキに恩も感じているらしい。
この世界に来てからこっち、俺とミズキが長期間離れたのは、あの雀牌でミズキが過去に行った時だけ。きっとその時に、クラピカとミズキは出会ったんだろう。そしてそこで、クラピカがそこまでミズキに恩義やそれ以外のものを抱くような、何かがあった。
だからこその敵意、嫉妬か。シャルのこともあるし、ミズキは思った以上にモテるのかもしれない。
だとしても。

「――クラピカには、関係ないことだ」

大人げない自覚はある。
それでも俺に非のないことで敵視されるのは多かれ少なかれ腹が立つし、わざわざ違う世界からミズキと二人きりでここに来た、なんて説明してやる義理もない。
なにより、ミズキは俺の唯一だ。あの日に感じた寒気を、俺は今も覚えている。
もしもミズキが誰かを大事に思っているのなら、それは仕方のないことだけど。だとしても簡単には手放せない。そう易々と、俺たちの繋がりを手放してはしまえない。

クラピカは尚も食い下がってきたけど、俺はそんなに気になるならミズキに訊けよと投げやりに答え、本へと視線を戻した。クラピカからも背を向け、もう何も答えないといった態度を見せる。
そうすればクラピカはもう何も言ってこなかったが、ゴンとキルアから、苦笑しているような気配を感じた。


 +++


ようやく五十時間が経ち、俺たちは小部屋を出て先へと進む。
転がってくる岩に追いかけられるわ、槍が降ってくるわ、道を間違えて元の場所に戻ってくるわの散々な道だったが。それらをなんとか乗り越えて、やっと、最後の分かれ道に辿り着いた。

「五人で行けるが長く困難な道、三人しか行けないが短く簡単な道……ねえ」

女の像から流れてきた説明を聞き、壁に設置された二つの手錠を見やる。五人の道ならば○を押し、三人の道ならば×を押す。三人の道の場合は、二人をあの手錠に繋ぐことになるようだ。
部屋の壁には、ご丁寧にもたくさんの武器が備え付けられている。
簡単な道を選ぶんなら、戦ってでも三人の枠を奪い取れってことだ。……一緒にいるのがゴンたちじゃなかったら、出来るんだけどな。

「俺は×を押すぜ。そしてここに残されるつもりもねえ」
「オレは○を押すよ。やっぱり、せっかくここまで来たんだから五人で通過したい」
「ミズキも、俺たちのうち誰かが落ちたら悲しみそうだしな。俺も○」

レオリオ、ゴン、そして俺の意見を聞いた上で、しかし残り時間は一時間もないことをキルアが告げる。
それもそうだ。四十五時間もかかる道なんて、俺たちに進む余裕はない。

どうすれば五人全員で試験をクリア出来るのか。
やいのやいのと言い合っているキルア、レオリオ、クラピカを眺めつつ、扉へと視線を移していく。女の像を境にして、二つに分かれている扉。
あ、と俺が気が付いたのと、黙り込んでいたゴンが口を開いたのは、ほとんど同時だった。

「ねえこれ、壁を壊せないかな」
「ゴンの言う通りだ。これ、両方の道が壁一枚で繋がってんじゃねえの?」
「だとしたら、五人の道に入って、壁を壊せばいいんだよ!」

は? と三つの声が重なる。俺とゴンはナイスアイディア、もっと早く気付けたらよかったのにね、なんて顔を見合わせて笑いつつ、壁に取りつけられた武器を取る。
そうと分かればさっさと行動だ。
まだはっきり理解は出来ていないらしい三人に武器を押し付けがてら、ゴンと共に説得を行う。そうして理解した三人と共に、全員で○ボタンを押した。開かれるのは、五人で進む道。

各々が手にした武器で壁を壊す作業に入る中、頭の片隅で考える。
こんくらいの壁なら素手でも壊せるし、斧にオーラを纏わせればもっと早く、容易に壊せる。……けど、それはなんだかこいつらの努力に水を差す気がしたから。
のんびりやろう。三十分くらいで済ませれば、間に合うはずだ。
手抜きすんのもどうかと思うんだけどなとため息を吐いて、壁へと斧を振りかぶった。

そして。

「ケツいてー」
「短くて簡単な道が、滑り台になってるとは思わなかった」
「ほんとにな」

制限時間五分前に、俺たちは全員でゴールした。けれどそんな俺たちを、誰かが迎えてくれるわけでもなく。
絶対ミズキが来ると思ったんだが。何やら話している四人に背を向け、周囲をぐるりと見回す。気付けば、ミズキを捜しているのは俺だけじゃなかった。

「あ、いた。……けど」

俺が見つけたのと同時に、キルアが呟く。
五人の視線が集まる先、ヒソカとギタラクルの真ん中で、ミズキはヒソカの腰に腕を回してぐっすり眠っていた。

……なにやってんだあいつ。




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