※先輩視点



俺に続いて、ゴンもひょろいローソク男に快勝。
しかし次のレオリオは賭け勝負に負け、トータル五十時間をチップとして支払うことになってしまった。残り時間は十時間をきることになる。
つーか五十時間って二日ちょっとだよな。それをこのタワーの中で過ごすのか? うええ……。
なんかミズキに会いたくなってきた。ミズキもこっちのルート選んでくれりゃよかったのに、と考えたところで、ふと思い当たる。
ミズキはこうなることがわかっていたから、こっちのルートを選ばなかったんじゃないか?
……いや、まさかな。

「んじゃ次、オレ行く」
「がんばれよーキルア」
「うっせえよ」

一歩前に出たキルアに応援の言葉をかけたら、あっかんべーをされてしまった。
大人げないとは思うんだが、年相応に腹立つ奴だ。

レオリオとキルアがやいのやいの言い合っている間に、ちらと相手側へ視線を向ける。手錠が外れたばかりの男の両手には、僅かながらもオーラが集中しているように見えた。
念使いにしては荒っぽく、中途半端だ。無意識のものだろうか。

「……がんばれよ、キルア」
「あ? ……ああ」

再び、今度は茶化さないように声をかける。
ガンを飛ばしてきたキルアも、俺の表情を見て、少しはちゃんと頷いていた。

が、まあ結果はキルアの圧勝だった。俺はキルアを見くびりすぎていたらしい。
念を使えなくても、暗殺一家のエリートだったら、あんくらいのことは出来るのか。何だよあの手、普通にこええ。
……なにより、視界の中で倒れているのは、人生の中で初めて見る死体だ。意識して視界に入れないようにし、嘔吐いてしまいそうなのを必死に耐えながら、とりあえずキルアにタオルを渡す。
血まみれの手のままでいてほしくない。あのタオルは割と気に入っていたものだけど、仕方ないだろう。ゴミ箱行きだ。

三勝一敗で、クラピカは戦うことなく勝負は終わった。それでもチップの五十時間分、俺たちはルートの先にある部屋で過ごすことになる。

「簡易ベッドすら無しか……」

小部屋の中は、ソファが一つにでかいクッションが二つ、タオルケットが人数分に、テーブルが一つ。あとは簡易キッチンと、本棚にテレビにゲーム、そんな感じだった。
時間は潰せるし休息も得られる。それでもこの中で五十時間、約二日を過ごすのは少しばかりキツい。
各々が適当な場所に腰を下ろしたところで、クラピカがキルアにさっきのはどうやったのかを問いかけていた。

「ただ抜き取っただけだよ。ただし、ちょっと自分の身体を操作して盗みやすくしたけど。殺人鬼なんて言っても結局アマチュアじゃん。俺、一応元プロだし」

そういえばそんなことを飛行船の中で聞いた気がする。
この世界ほんとおかしいなあなんて思いながら聞き流していたけど。

でも、そうか。操作する、って自分の肉体にも適用されるのか。もしかしたらそれとはちょっと違うかもしれないけど。
猫が爪を立てている時のようなキルアの手を見ながら、ぼんやりと考えた。

「そういえば、ミズキはもうクリアしたのかな」
「どうだろうな」
「開始から十時間以上経っているのだし、ミズキさんならクリアしているんじゃないか?」
「ああ、なら訊いてみるか?」

ミズキについて話し始めたゴンたちに携帯を見せれば、特にゴンとクラピカがこくこくと首を縦に振った。こいつらほんとにミズキのこと好きだな。
試験中だったら邪魔になるかもとは思ったが、とりあえずかけるだけかけてみる。ミズキのことだ、こんなとこで苦戦まではしてないだろ。
コール音が続く中、出ないんならまだゴールしてねえのかな、と思い始めたところでようやく繋がる。しかし携帯から聞こえてきたのは、気色の悪い声だった。

『やあタカト、どうしたんだい?』
「……俺はミズキにかけたはずなんだが」
『ミズキなら疲れてぐっすり眠っているよ。ああ、勿論ゴールした後でね』
「ふうん。お前ら二人きりなわけ?」
『そんな電話越しにでも分かるほどの殺気を漏らさないでおくれよ。ギタラクルも一緒さ』
「尚のこと安心出来ねえよ」

舌打ちを一つ。どうやら三人は既にクリアしているらしい。
にしてもミズキ、あんなにヒソカのこと嫌ってて、イルミも好ましくは思ってない風だったのに、そんな奴らの側で寝てんのか。
ちょっと……警戒心なさ過ぎだろ。既成事実でも作られたらどうするつもりなんだ、あいつ。

かといって今の俺にはどうすることも出来ない。しばし沈黙していたら電話口の向こうが騒がしくなり、ドゴッと鈍い音が聞こえたのと同時に、ヒソカのものではない声が鼓膜を揺らした。
めちゃくちゃ焦っているその声に、少しだけ笑みが漏れる。

『ごごごごめんなさい先輩! ヒソカが勝手に電話出ちゃったみたいで、あの、うわあほんとにごめんなさい……! 変なこととか言ってませんでしたか!?』
「大丈夫だよ、おはよう」
『うっ……おはようございますすみません……』

唸りながら誤るミズキの後ろで、また何かを殴るような鈍い音が響く。
ヒソカが散々な目に遭ってんだろうと考えると、かなり面白かった。どうやら俺は自分で思っている以上に、ヒソカのことが嫌いらしい。

「タカト、ミズキと繋がったの? オレにも話させて!」
「ああ、わり。ミズキ、ちょっとゴンと替わるな」
『あ……』

ミズキに断ってから、ゴンに携帯を渡そうとやや耳から離したところで、ミズキのごくごく小さな声が聞こえてくる。

『やっぱり先輩、ゴンたちのルートに行ったんだ』

それは勿論俺に言ったわけではなく、ヒソカたちに言ったわけでもない、ミズキの独り言のようだった。そもそもその声自体、俺ですらようやく聞き取れた程の小ささだ。意図して口にしたわけではないんだろう。
でも、その言葉に違和感を覚える。

何でミズキは、ゴンの声しか聞こえなかった状況で、ゴンたち、と断言したんだ? ゴンと俺の二人だけ、っていう可能性だってあったのに。
ゴールしたら、訊いてみるか。やっぱりミズキは、この世界――この試験について、何かを知っているのかもしれない。

「ミズキは大丈夫? もう試験クリアしたって、すごいね!」

ゴンが俺の携帯でミズキと楽しそうに話しているのを眺めながら、この部屋に入ったときにいれたお茶を喉に流し込む。

ちなみに俺の携帯はその後他の三人にも回され、俺の手元に帰ってきたときには最初よりも若干、ミズキの声がぐったりとしていた。
なんか、悪いことしたかもなあ。




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