適当な部屋でシャワーを浴び終え、部屋を出たら目の前にイルミがいた。喉からヒュッて変な音が鳴るくらい、心底びっくりした。
つーかギタラクルの格好じゃないのな。いやギタラクルの姿で待ち伏せされてたら、喉からヒュッどころの騒ぎじゃなかったと思うけど。確実に心臓が危なかった。イルミでよかった。
……よかったのか?

「お風呂上がりもかわいいね、ミズキ」
「はあ、どうも」

まだ乾ききっていない私の髪を一房つかみ、軽く唇を落としてくる。やってることはまあかっこいいとは思うけど、待ち伏せは完全にアウトだ。
とはいえ何を言っても無駄だろうから文句を飲み込み、イルミと共に通路を歩きだす。

「んで、何か用?」
「特に用事はないけど」
「ないんかい」

犬のように私の一歩後ろをついてくるイルミは、なんかご主人様が撫でてくれるのを待ってるペットみたいだ。
何でイルミがこんなキャラなんだろう。やるせない。

「ミズキと話がしたくて」
「……そっすか」

無表情でよくもまあ。

廊下だといつ受験者に鉢合わせるとも限らなかったので、適当な部屋に入ってお茶を入れることにする。あれこれ二人っきりになってるな。うっかり。
ついでだからとイルミの分のコーヒーもいれれば、「俺このコーヒー永久保存したい」と、どっかで私が思ったことのあるようなことを言われた。腐るからやめようね。

その後もイルミは何を話すわけでもなく、ただ時折ちらっちらっこっちを見ては目を逸らし、コーヒーをすするだけ。
ほんとに何でイルミがこんなキャラなんだろう。マジでやるせない。
あまりに居心地が悪かったから、私から口を開く。

「キルア、どうすんの? 順調に試験受かってるけど」
「うーん、どうしようかな。ミズキが帰れって言ってくれたらいいのに。なんか話してたでしょ」
「少しはね。でも私は、キルアの家出賛成派だから」
「……何で?」

唐突に変わったイルミの空気に、少しだけ驚く。
やっぱり弟のこととなると、イルミは原作通りのイルミのようだ。ブラコンだなあ。でも何故か安心してしまうこの複雑な感じ。

「なんとなく。友だちも出来て、今のキルア楽しそうじゃん」
「あいつに友だちはいらない」
「私とイルミは友だちなのに?」
「ミズキは嫁になるんだよ、友だちとは違う」

マジかよ私は友だちだと思ってたのに……。
ていうか友だちからって私言ったじゃん! イルミ了承したじゃん!? 何その無駄なフェイント。びびる。まあイルミだし……別にいいけど……。

若干滲みかけた涙はそのままに、「キルアは外に出した方が強くなるよ」と、原作を知っているからこそ言える台詞を口にする。
イルミはわかりづらく顔を顰めて、まだ早い、とだけ返してきた。
うーんこの分からず屋め。

「あの子が自分から出て行ったなら、それが時期だったんじゃないの。まだ早い今じゃないって、ずっと家に縛っておくのもどうなのよ」
「俺の家のこと、ミズキには関係ないだろ」

うわ今の、ちょっとカチンときた。

「私のこと将来嫁にするとか言ってたのに何で家のこと関係ないとか言うわけ? もしなんかを間違ったらキルアは私の弟になるかもしんないんですけど? 嫁にしたいなら関係ないとか言うなよ」

気付いたらそう口走っていて、あやべ今の発言はしくったなと考えた頃には、既にイルミの顔が喜色満面だった。やべえ。
もう一度言わせてほしい。やべえ。

「ミズキ、とうとううちに嫁いでくれる気になったんだね」
「いやそれとこれとは話が違」
「そうだね、キルはミズキの弟になるかもしれないんだから、キルをどうするかは二人で決めよう。あとついでに将来の子供の名前も決めよう」
「イルミ待っ」
「男と女どっちがいいかな。俺はミズキにそっくりの強くて可愛い女の子がいいと思うんだけど、ミズキはどう思う?」
「どっちかって言うとイルミ似の女の子のが可愛いような……ってそうじゃなくて!」

うっかり話に乗っちゃったけど、今そういう話してんじゃねえよ!
キルアの話だよキルアの話。何でそれが子供の話になるの。あと私ゾル家には嫁がないから!

「うちは男ばかりだから、女を産んだら母さんが喜ぶよ」
「だからとりあえず話を戻そう、イルミ……」




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