美味しいゆで卵は食べたいけどそのために命がけのダイブはしたくない。

そんなこんなでマフタツ山まで来た受験者たち。
やるのは原作通り、谷に飛び込んでクモワシの卵を取ってくる、っていう試験なんだけど。

「無理無理無理マジで無理、こんな高いとこ飛び降りるのは無理死にたくない」
「ミズキは率先して飛び降りるタイプかと思ってたのだけど、違うんだねえ」
「うおあヒソカびっくりさせんな! 落ちるだろが!」

いつの間にか背後に立っていたヒソカに、危うく崖から落ちそうになって焦る。ぎりぎりで粘った私を誰か褒めて欲しい。
ていうかこいつ時々まったく意味ねえ場所で絶までして近付いてくんの、ほんっとにやめてくんないかな……腹立たしい……。センサーはってりゃ絶されてようが気付けるけど、普通の時はさすがに絶をされたら気付けないのだ。マジでやめろ。

それはそれとしてほんとどうしよう。いや飛び降りなきゃいけないことはわかってる。わかってるんだ。でも飛び降りるための勇気と、その勇気を出すための気合いがない。ゴンとか先輩に癒されたい。
でもタカト先輩含め主人公組はもうさっさか飛び降りちゃってんだよね! 薄情者!!

「ボクが助けてあげようか」

顔を覆って空を仰ぐ私に、ヒソカがにんまりと笑う。指の隙間からじとりと見やれば、ヒソカの指先にはオーラで描かれたハートマーク。
助けるってどうやって助けるねん、と何故か関西弁で内心半ギレていれば、そのハートマークがヒソカの指先から離れ、ぺたりと私の腕に引っ付いた。
……あ、伸縮自在の愛か。

「……今度なんか奢るわ……」

なんとなく情けなさを感じつつも、ありがたくそれを享受する。
お礼はキスでいいよ、なんてヒソカが笑うもんだから、私も思わず笑顔を浮かべてしまった。もちろんヒソカを蹴飛ばしながらだ。セクハラだめぜったい。

「じゃ、イくよ」
「はいはい行く、ね」

私の腰を抱えようとするヒソカを、今度は谷底に向かって蹴飛ばし、私も後を追うように飛び降りる。
万一クモワシの糸を掴み損ねても、伸縮自在の愛が腕に引っ付いてるからヒソカが助けてくれる、はずだ。ヒソカは意味のある嘘もない嘘もつく奴だけど、こういうとこでは信頼していいと思う。多分。

結果として私は糸を掴み損ねることもなく。もちろんヒソカもちゃんと糸を掴み、私たちは無事に卵を手にすることが出来た。
そして次の問題は、この岩壁をよじ登る、ってことで。
三次試験でタワーを直接降りようとしていたロッククライマーの人なら、余裕で登ってるんだろうなあとぼんやり考える。現実逃避です。

ひとまず壁際まで辿り着いたところで、しゃあないとため息を吐き、頭上を見上げる。既に登り始めていたヒソカは、こっちをちらとも見やしない。
……あいつとかぶってるから、ほんとは使いたくないんだけど。

両手と両足に少し多めのオーラを纏わせ、更にそのオーラの性質を変化させる。イメージとしては、糊、だろうか。ガムだとは言いたくない。とにかく粘着性を持たせる。
岩壁に手をつけたり離したりして粘着性の確認をした後、これで落ちることはないだろうと安心してよじ登り始めた。
うん、オーラの調整が少しばかり難しいけど、意外と楽だ。

ちなみにこれを思いついたきっかけは、決してヒソカの伸縮自在の愛ではなく、某忍者漫画に出てくるチャクラだ。
ナルトが成長する前くらいまでしか読んでなかったけど、チャクラを使って足のみで木を登る練習とかしてたはずだ。そんなイメージ。
てことはオーラも応用すれば水の上とか歩けるようになるんだろうか。撥水性を持たせる……とか……? 覚えてたら今度試してみよう。

「あ、帰ってきた」
「タカト先輩」

岩壁を登り切れば、タカト先輩が「ほら、手」と迎えてくれた上に手まで差し伸べてくれた。神様……。
右手のオーラを元に戻して、手汗かいてないよな!? よし大丈夫だ! と一応服で軽く払ってから、先輩の手を取る。引き上げられてようやく地面に降り立ち、ほうと安堵のため息を吐いた。
やっぱり人間は地に足つけて生きるべきだ。地面最高。

その後食べたクモワシのゆで卵は、今まで食べたことないくらい美味しかったです。
卵かけご飯でも頂きたかった。


 +++


さて、場面は変わり飛行船内部。
ネテロ会長が同行を告げ、マーメンさんが軽い説明を終えたところだ。

「飛行船の中、探検しようぜ!」
「うん! ミズキとタカトも一緒に行こう!」
「お、行く行く!」
「私はパス〜」

元気いっぱいな二人に加え、先輩も行くなら着いて行きたさは百二十%なんだが、いかんせん私は疲れたしシャワーを浴びたいのだ。ゴンと先輩が残念そうな顔をしてくれたけど、こればっかりはごめんとしか言いようがない。
ゴンの頭をくしゃりと撫で、いってらっしゃいとゆるく笑えば、ゴンは元気に頷いて三人で走って行った。
若いっつーか、元気だな。タカト先輩も。見るもの全部初めてで楽しい、って感覚は、タカト先輩も二人と同じなのかもしれない。
この場に残ったのは、私とクラピカとレオリオの三人となる。クラピカとレオリオもぐったりとした様子で、ゴンたちを見送っていた。

「そういえば、試験はあといくつあるんだろう」
「あ、そういや聞かされてねーな」

睡眠を求めている様子の二人が、ぽつりと呟く。
もちろん私は、次が三次試験だからそれ合わせてあと三つだね、なーんて言わない。口開く元気もあまりないし。
でもクラピカが、私の方を期待のこもった眼差しで見つめて「ミズキお姉さんはどう思う?」なんて聞いてくるもんだから。

「あー……っと、多分三つくらいじゃないかな。試験は平均して五つか六つ程度らしいから」
「なるほど。ならば尚のこと休んでおいた方がいいな」
「そゆこと」

さすがミズキお姉さんだ、と私を見つめてくるクラピカの視線がどうにも恥ずかしい。博識とかじゃないんだよ、元から知ってるんだよ。多分博識度合いで言えばクラピカの方がよっぽど上だよ。

ていうか今の時点じゃ二歳そこらしか変わらないんだから、そのミズキお姉さんっていうのやめてくんないかな。妙な恥ずかしさがある。
やんわりとその思いを伝えれば、クラピカはしばらく逡巡したあと、困ったように笑った。問えば、お姉さんでなければ他にどう呼べばいいのかまったくわからないらしい。
ゴンたちが呼び捨てにしてるんだから、呼び捨てにすればいいのに。ほんと、律儀というか真面目というか。そういうとこがかわいいんだけど。
再びしばらく悩んでいたクラピカは、渋々といった様子で「では、ミズキさん……で」と呟いた。ミズキさんも如何なものかとは思うけど、まあお姉さんよりはマシだろう。
まず私お姉さんってキャラじゃないからね。ふっつ〜に照れるのよね。

「ん、ありがとクラピカ」

わしゃわしゃと頭を撫でると、クラピカは本当に嬉しそうに笑う。頭を撫でられるなんて、好きそうな子には見えないのにな。

「じゃあ私、シャワー浴びてくるから」
「おー、行ってこい」
「私たちは適当な場所で寝ているよ」
「わかったー」

二人に見送られ、シャワーを探しに船内を彷徨う。
多分客室はどこでも使っていいんだろうけど、どこのを使おうかなあ。ていうかどこのを使っていいのかな。そこら辺がいまいちわからない。早くさっぱりしたいのに。

うろうろとしている内に、ゴンたちのいる場所に出てしまったらしい。先輩にはバレたかも、と思いつつ咄嗟に絶をして、物陰に身を隠す。
ちょうどキルアの家族について、先輩とゴンに話しているところみたいだ。盗み聞きするべきじゃないとは思うんだけど、先輩がどう反応するのかが気になって、なんとなく聞き耳をたててしまう。ごめんキルア。
先輩は旅団の時みたく、多少なりとも怖くなってしまうのかな、と予想していたんだが、思いの外あっさりと相づちを打っていた。大物だな。

「ゴンもタカトも変なやつ」
「ミズキも気にしないと思うけどな。えっマジで? すごい、ってキルアの頭撫でてそうじゃん」

ああ、事前知識なかったらやりそう。
そもそも無知トリップだったらみんなの頭をああぽんぽん撫でまくってないと思うけど。多分。

「あははっ確かに! ミズキってオレたちの頭撫でるの、好きだよね」
「な〜んかガキ扱いされてるみたいで嫌だけどな」
「えー? オレは嬉しいけどなあ」

うわあ自分のいないとこで自分の話されてるのってなんかやだ。恥ずかしい。
そこにいるのが好きな人ばっかで、しかも割と良い話題ってのが余計になんかこう、ひょああってなる。言語にしづらいんだけど、察してほしいこの感じ。

私はこんなところで三人の話に聞き耳を立てず、さっさとシャワーを浴びに行くべきじゃないんだろうか。うんそんな気がする。
よし行こうすぐ行こう、と踵を返した、ところで。

「俺、ミズキに頭撫でてもらったことねーんだけど」

そんな、タカト先輩の声が聞こえた。

……いやそりゃ当たり前でしょ!? 先輩年上だもの! それ言ったら旅団のみんなだって、フェイタンとコルトピ以外頭撫でたことないよ!
フェイタンとコルトピも多分年上だと思うけど、あの二人は私より背低いし。セーフセーフ。何がセーフかはわかんないけどセーフ。

「あれじゃね? ミズキ、タカトのことセンパイーって呼んでんじゃん。タカトのこと尊敬してんだろ? そういう相手の頭、撫でたりしねーだろ」
「尊敬ねえ……年上だからそう呼んでるだけだと思うぞ」
「でもミズキって、タカトのこと大好きだよね!」

ゴンくんー!?
びっくりしすぎて変な声出そうになったわ。なんてこと言ってくれてんだゴンお前。後でアメちゃん投げつけてやる。
「ああまあ、確かにな」なんて、キルアもニヤッニヤしながら同意すんなよ! ポケットの中に入ってるチョコロボくんこっそり二つに増やすぞ!

……好意はバレてほしくないけど、さりげなくフラグは立って欲しい複雑な乙女心である。

「それ言うなら、ゴンとキルアのことも大好きだろあいつ。クラピカとか、レオリオのことも」
「あ、そっか。オレもミズキのこと大好きだしね!」
「ほらな。そういう好きだって」

うー……んなんだろうこの複雑オブ複雑な感じ。フラグはどう足掻いても立たない! 残念!
なんかもう完全に自分がいたたまれなくなってきたので、私はそっとその場を離れた。あの様子ならタカト先輩にもバレてないみたいだし、適当なところで絶をやめれば大丈夫だろう。

はあ、シャワー浴びて、今さっきのことは忘れよう。




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