エレベーターの外へと一歩踏み出した瞬間に感じた、ぞくっとする気配。この感じはあいつだなと顔を顰めた瞬間、ぎゅうと抱きしめられた。

「やあミズキ、久しぶり。無事に辿り着けたようで何よりだ」
「おう……」

誰かとか言うまでもなく、その正体は当然ヒソカで。私はもう拒否る気も起きず、ため息を吐くことしか出来ない。
気配を感じさせず現われたヒソカに、先輩はほんの少し驚いたようだった。多分現状にもな。泣きたい。

「あんまひっつくな」
「ヴッ」

一発、鳩尾に勢いよく肘を入れてやれば、ヒソカは鈍い声をあげて私から腕を放す。
腹部をさすりながら「酷いなァ」とか言ってるけど、実際大したダメージじゃないことはわかってるから無視だ。

そんなことをしている間にやって来ていたマーメンさんから、私は300番、タカト先輩は299番のプレートを渡される。ほんとはつけておいた方がいいんだろうけど、と思いつつ鞄にしまった。まあさほど問題はないでしょ、多分。

「で、何でミズキたちはギタラクルと一緒にいるんだい?」
「ぎたらくる」

ひらがな発音で疑問符を浮かべる先輩に、イルミの偽名がギタラクルなのだとオーラで文字を書いて伝える。
なるほどと頷いた先輩は、すぐに変な名前だと少し笑った。ごもっともだ。アナグラムでもないし、どっから出てきた名前なんだろう、ギタラクル。

「一緒だったのは、たまたまエレベーターがかぶったから」
「ふうん? ボクも外で待っていればよかったな」
「待ち伏せは勘弁してくれ」

だいたいイルミは待ってたんじゃなくて、偶然一緒になっただけでしょ。……え、偶然だよね? まさか待ち伏せしてたとかそんなことないよね……。
まさかな……と疑惑の眼差しをイルミに向けたら、そっと目を逸らされた。
……うん、考えるのやーめよ!

一瞬顔を青ざめさせていれば、不意にぱしりと手を取られる。今度はどっちだと腕の主を見やれば、予想外すぎることにそれはタカト先輩だった。
青ざめていた顔が一気に紅潮する。

「じゃあ俺ら、適当にうろついてくるから」

そのまま歩き始める先輩に、私はきゅんきゅんしながら今の状況を心のアルバムに保存する。まさかこんな展開になるなんてね! いえーいめっちゃハッピー!
けれどヒソカとイルミは、僅かながらもわかりやすく、タカト先輩へと殺気を向けていた。うーん愛されている。でも先輩に殺気向けんのはやめろ怒るぞ。

「ミズキは俺と試験、受けるんじゃないの」
「何言ってるんだい? ボクと受けるんだよ」
「お前らのそばにいたらミズキが変な目で見られるだろうが。可哀相だろ」

わーいめっちゃ同情されてた。
せやろなとしか言えない先輩の言葉に、喜べばいいのか悲しめばいいのかわからなくなって遠い目をする。
きっと時々私と先輩の家を掃除してくれてるだろうコルトピへ。今日は好きな人に同情されました。優しさが悲しいです。ミズキより。

「だからあんまミズキに関わんなよ。特にヒソカ」

内心手紙をしたためていたところで、先輩がぶわりと殺気を滲ませる。そうして私の腕を引いたまま、歩調を速めた。
あ〜……先輩かっこいいから全部ゆるす〜!!

再びきゅんきゅんしながら先輩に引きずられつつ、ふと後ろを振り返る。
背後では行動にこそ移さないものの、ヒソカとイルミが不満そうにこちらを睨んでいた。から、「また後でね」とオーラで文字を書き、ついでに軽く手を振っておく。
その瞬間二人共殺気が消えて手まで振りかえしてくれるんだから、マジでこいつら私のこと好きだな……と若干引いた。
自意識過剰であってほしいのに、自意識過剰じゃない現実イズつらい。


 +++


ようやく始まった試験の内容は、試験管であるサトツさんに着いて行くだけ。
長距離走派の先輩はラッキーと鼻歌を歌いながら走り始めていたけど、短距離走派の私にはめんどいことこの上ない試験だ。この世界に来てから持久力も上がってくれたのが、不幸中の幸いか。

「ミズキ、外周の時もだるそうにしてたもんな」「ハードル走とかなら割と好きなんですけどね」なんて走りながら会話をしていれば、いつの間にやら目の前をサトツさんが走っている。
つまり、先頭に来てしまったらしい。ちらと背後を振り返る。このままここにいれば、階段の辺りでゴンたちに会えるな。

「なんか嬉しそうだな、ミズキ」
「え? ああいや、あはは」

ゴンとキルアに会えるのが楽しみすぎて、それが顔に出てしまっていたらしい。先輩に指摘されて、思わず苦笑してしまった。

でも、顔に出てしまうのは仕方ない。だってゴンとキルアめっちゃ可愛いじゃん!? この世界でトップクラスの可愛さじゃん!
早く仲良くなって、コルトピみたいに撫でたりハグしたりしても怒られないくらいになりたいなあ。きっとゴンは笑顔で受け入れてくれて、キルアは子供扱いすんなよ! って言うんだよ。うわかわいい。想像するだけでかわいい。

「お姉さんとお兄さん、足速いんだね!」
「っえ?」

ウワッ、き、きた! まさかゴンから話しかけてくれるとは思わなかった!
階段にさしかかった辺りで追いついてきたゴンの声に、私とタカト先輩がほぼ同時に振り向く。そこには本当に、本物の、動いているゴンとキルアがいて。目の前に。

――かっ……わいい……ッ!!

思わずガッツポーズしかけた。あやうかった。

「そういうお前らも速いじゃん」
「う、うん、本当」

感動している私よりも早く先輩が返事をしてくれたので、便乗しておく。
ゴンとキルアは少し笑うと、私たちの横に並んで走りだした。

「オレ、ゴン! 二人の名前は?」
「私はミズキ。よろしくね」
「俺はタカト。そっちは?」
「キルア。ねえ、あんたらヒソカとか針男と知り合いなの?」

ありゃ、見られてたのか。ていうかキルアってヒソカの名前は知ってるんだなあ、どこで聞いたんだろ。トンパからか?

もう友だちになる気満々、といった様子のゴンとは違って、キルアはまだ私たちを警戒しているみたいだ。そこら辺はさすが暗殺一家の子供、って感じ。
先輩が、ああこいつがキルアなのか、って顔をしているけど、まあそれはおいといて。

「知り合いだよ、不本意ながらね」
「ふーん。同じタイプには見えないけど」
「頼むから一緒にしないでくれ」

キルアの言葉に、心ッ底嫌そうな顔で先輩が吐き捨てる。
その表情の変わりっぷりにウケたのか、おもしれーやつ、とキルアはけらけら笑った。

「つーかお前ら何歳?」

明らかに年下なキルアに笑われたのが気にかかったんだろう、先輩がやや顰めっ面で問いかける。そういうとこ先輩は結構体育会系だ。旅団には女性陣除いてタメ口だけど。
ゴンがもうすぐ十二、キルアも同じだと答えたとこで、先輩の表情はまた変わった。今度はちょっと引き気味の顔だ。

「うわ、六つか七つも下かよ」
「……てことは、十九歳?」
「もうすぐな」

ええーっ!? と、ゴンとキルアが驚きの声をあげる。確かに先輩って割と童顔だけど、そんなに驚くことかね。
そう思っていれば「レオリオと同い年には見えないなあ……」とゴンが呟いた。ああ、そういやレオリオも十九歳だったっけ。
そう言われてみると、タカト先輩とレオリオが同い年には思えないな。老け顔、って言ったら悪いか、大人っぽいレオリオと、童顔の先輩だ。驚くのも当然かもしれない。

「ミズキさんは何歳なの?」
「ん? もうすぐ十八」
「まじかよ、精々十五くらいかと思ってた」
「ごめん、オレも……」
「ひ、ひどい」

十五ってトリップしてきてからまったく成長してないみたいじゃないか。むしろトリップしてきた時より下だし。
あれからおしゃれとか結構意識してきたんだけどなあ……若く見られて喜ぶべきか、子供扱いされてかなしむべきか。
子供の無邪気な笑顔がつらいね!




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