時が流れるのは早いもので。いつも通り修行をしつつふとカレンダーを見やった私は、「あ、やっべ。今回のハンター試験って原作じゃん」と気が付いた。
試験申し込みの締切りは十二月三十一日いっぱい。今日は十二月の二十六日だ。ちなみにクリスマスとかいうものは完全にスルーしていた。

基礎鍛錬を一旦やめ、ジンさんのやってたイボクリを片手間にやりながら、カレンダーを見つめる。
ハンター試験を受けたい。その気持ちに変わりはない。そして私が受けたいハンター試験は、第287期のハンター試験。
原作に絡みたい、って気持ちは……まあもちろんあるんだけど、それよりもやっぱり、キャラを間近に見てみたいのだ。特にゴンを。私の最推しなので。言ってしまえば物見遊山である。
そうだとしても、ハンター証は持ってて損するものでもないし。その便利さはこの世界で過ごしていれば、否が応でも理解出来る。

とりあえずはシャルに話せば、申し込みの仕方やらなんやらを教えてもらえるだろう。
あとは出来れば一緒にハンター試験を受けてもらいたい、正確にはあまり一人で旅団の元に残っていてもらいたくないタカト先輩を、どう誘うべきかだ……。
――と、考えていたところで携帯が鳴った。一度着信音が鳴り、すぐに途切れてまた鳴る、という変な挙動をしていたので、首をかしげながら画面を覗き込む。
メールが二通、届いていた。

一通目はヒソカから。「ハンター試験、今年こそ一緒に受けようね」と、もちろんハートマークつきで。
そういえば前回の試験、誘われてたけどメールの返事することすら忘れていた。

二通目は、ヒソカ繋がりでアドレスを知ったイルミから。「今年のハンター試験、俺受けるからミズキの分も申し込んどいたよ」……って、えええ!? イルミてめえ!

この世界の個人情報どうなってんだと思いつつ、申し込まれたものはもう仕方がない。ため息を一つ吐いて、ヒソカには「そうだね」、イルミには「報・連・相って知ってる?」とだけ返信を送る。
携帯をポケットにしまい、深呼吸を一つしてから、私は階段を降りていった。


 +++


「ハンター試験――ってあれか、修行始める前にクロロが説明してたやつ」
「それです。なんか私のはイルミが勝手に応募しちゃったらしいんで、もしよければその、先輩も一緒にどうかな、と」
「勝手に応募出来るもんなのか? 個人情報の扱いどうなってんだ」
「それな以外の返答が浮かびませんね!」

階段を降りるだけで無駄に一時間くらいかかったのは、いやでも先輩をあのハンター試験に連れてっていいものか? だとか、ていうか私から先輩に外泊のお誘いするの恥ずかしすぎない? だとか、でも先輩一人を旅団のとこに残したくないしな……だとか、そんなことを一段降りる度に考えては立ち止まっていたからだ。
階段を降りきった頃には、ずっと気配で気付いてたんだろう、心配そうな先輩がすぐそこで待っていた。素でびびった。

ともあれ事情を説明し終えれば、先輩はあっけらかんとした様子で「んで、その申し込みってどうやるんだ?」と首をかしげる。
きょとんとされるかもと思っていたんだが、逆に呆けてしまったのは私の方だった。

「え、あの、タカト先輩。一緒に受けてくれるんですか?」
「ミズキが誘ったんだろ。……だいたい、あいつらも受けるんなら、お前一人行かせるのは心配だ」

何されるかわかったもんじゃない、とぼやく先輩に思わず遠い目をしてしまう。
心配してもらえるのはめちゃくちゃありがたいし嬉しいんだけども、ヒソカとイルミがなんか好かれてなさすぎて、遠い目。ヒソカは自業自得だと思うけど。イルミも出会い方があまり良くなかったかなあ。

まあなんにせよ先輩も一緒にハンター試験を受けてくれるのなら、願ったり叶ったりだ。
申し込みの方法は私も知らなかったので、二人でシャルの家に向かう。
完全にオフモードでベッドに寝転び携帯をいじっていたシャルに事情を説明すれば、少し怪訝そうにしたあと、申し込み方法を教えてくれた。なんなら申し込みしてくれた。

「試験は一月七日から。長くて一ヶ月、早くて一週間くらいで終わる。会場は俺が調べといてあげるけど、何が起こるかはわからないから早くて年明け、遅くとも三日前くらいには出発した方がいいと思うよ」

確か287期のハンター試験は、二週間そこらの長さだったっけか。もし主人公組と縁を持てたら、そこからゾルディック家に向かって、天空闘技場に行って、という流れになる可能性は高い。
そうなると。

「少なくとも二週間程度は、ミズキとタカトに会えないってわけか」
「……そう考えると、なんか変な感じだな」

シャルの言う通りになる。むしろそれ以上、一ヶ月も二ヶ月も旅団の元から離れる可能性があるんだ。先輩の言った通り、なんだか変な感じだった。
私は過去に行っていた一週間ちょい、旅団のみんなから離れていたけど。それでもそれ以外はずっと一緒だったし、先輩に関しては完璧に最初っから今までずっと一緒だ。
それが急に、何ヶ月も離れるかもしれなくなった。……まあ何ヶ月も、と考えているのは私だけだけど。
二週間程度と考えたとしても、期間としてはまあまあ長い方だ。

「タカトはマメに連絡くれそうだけど、なんとなく、ミズキは音信不通になりそうだよね」
「さすがに連絡もらったら返すって」
「そういうとこだよ」

思わずといったように吹き出したシャルが、私とタカト先輩の頭に手を載せる。撫でるわけでもなく、ただ載せただけ。

「団長、きっと寂しがるよー」

その言葉に、シャルも寂しがってくれてるんだなあと感じる。
先輩もそう感じたんだろう。私と目を合わせて、嬉しそうに苦笑していた。




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