寂れた商店街に住む幻影旅団とかやだ〜!! と再び私がだだこねる羽目になったのは、その翌日だった。 今度の仮アジトは、人気ゼロの廃墟と化した元商店街のようだ。周囲一帯の町そのものが寂れたらしく、人っ子一人どころか動物すら居やしない。交通の便が悪いらしく、隣町へは山を越えて車で三十分ほど。商店街があるのが不思議なくらいのド田舎である。新鮮。 だけど寂れた商店街で暮らす旅団、マジでやだ。廃ホテルの方が何億倍もマシだった。 道中でフェイタンとフィンクスが離脱し、代わりにボノとフランクリンが参入してきたため、いきなりだだこね始めた私に初対面の二人はキョトーン、だったが。 シャルにほとんど力技で黙らされ、私は渋々、適当な家に荷物を置いた。私が住むのはまあいいんだけど、やっぱ寂れた商店街に住む旅団、マジで無理すぎる。解釈違いで死にそう。 でももう受け入れるしかないのだな……と、ボロボロの床屋らしき店に入っていくシャルを見送りながら、私はそっと遠い目をした。 「うわ、ひでえ。とりあえずまずは掃除だな」 「えっ」 私が荷物を置いたのは八百屋か魚屋か、そんな感じの家のようで。一階はがらんどうの売り場に、玄関を越えて居間やら何やら、二階に寝室といった感じの建物だった。 物がないのだけが唯一の救いか、と積もりに積もった埃に口と鼻を覆っていれば、背後から当然のように荷物を抱えて入ってきたのは先輩だった。 えっ、……えっ? 先輩もここに住むの? 何で? フィンクスいなくなったから? 完全にフリーズした私を見て、先輩の眉がへなりと下がる。あっかわいい。ではなく。 「やっぱダメ……だよな。一階と二階に別れりゃ、今までも似たようなもんだったしいいかなーと思ったんだけど、男と女だし」 「エッあっえっ!? いや、えっ」 「フィンクスいねえし、シャルは一人がいいって言うし、俺コルトピやノブナガとはあんま話せてないからさ。ミズキのそばが一番落ち着くな、と思って。……でもま、やっぱやめとくわ。後で掃除は手伝わせてくれな」 「いや待っ、えっ!? ちが、え、マジで!?」 「大丈夫かミズキ」 私の混乱っぷりに先輩も思わず心配してしまうレベルである。 えっいや、えっ? こんなハッピー起こり得ていいの? だって先輩と一つ屋根の下とかやばくない? 死なない? 大丈夫私幸せすぎて死なない? だって前の時は建物自体が広かったし、シャワー使える部屋もいくつかあったから特に何も起きなかったけど、ここマジで普通に一軒家だよ!? ラッキースケベもワンチャンあるよ!? いいの!? 「わた、わ、私はその、タカト先輩が大丈夫なら、えっと……私も先輩が近くに居てくれた方が安心できますし、」 「……無理、してねえ?」 「っしてないです! 全然!」 「よかったあ」 安堵のため息を吐いて、先輩が荷物を床に置く。 そのまま適当なとこに座って、近くに団員の気配がないことを確認してから、ぽつりと呟いた。 「俺、みんなのこと好きだし、家族だと思ってるのも本当だけどさ。やっぱ違うな、って昨日改めて思ったんだ。盗みも殺しも、いけないことだろ? でも旅団のみんなにとっては、それが普通のことだって、実感して」 ちょっと怖かったんだ。 ため息交じりに告げた先輩の声は、微かに震えていた。 日本で生まれ育った私たちと、幻影旅団のみんなじゃ、どう足掻いても住む世界が違う。 人の物を盗っちゃいけません。人を傷つけちゃいけません。そうやって教えられていく私たちにとって、それらを当然のように行う旅団のみんなは、自然と恐怖の対象となり得る。 私は知っているからこそ、怖かった。先輩は知らなかったからこそ、怯えている。 ……もっと早く、気付くべきだったなあ。気付いたところで、どうしようもないことではあるけど、何かしらのフォローは入れられたかもしれないのに。 「その、……私といることで先輩が安心出来るのなら、いつだって側にいます。タカト先輩がみんなを好きだ、って思う気持ちだって、本当でしょう? みんなを怖いと思うのは当然のことだし、みんなだってそれくらいは自覚しているはずです」 「ミズキも、みんなのこと怖いって言ってたよな」 「はい。念を覚えて、きっとみんなにも勝とうと思えば勝てるだろうと思える今だって、私はみんなを怖いと思います」 「それでも、普通に話したり触ったり、出来てるんだよな」 先輩だって、フィンクスと普通に話してたじゃないですか。そう笑って、少し躊躇ってから先輩の隣に腰を下ろす。 「少なくとも幻影旅団のみんなは、私と先輩に手を出しません。だからといって関係ない人を殺める彼らを、怖くないと断じることは出来ません。それでも先輩にとっては、大好きな第二の家族、に変わりはないですよね」 「……そうだな。相変わらず、クロロには金かけてもらいっぱなしだしなあ」 「いつか返さないとですねー」 タカト先輩の表情に柔らかさが戻ったのを確認し、服についた埃を払いながら立ち上がる。 先輩も立ち上がって、変わらず埃まみれの建物を見上げた。 「掃除、どんくらい時間かかるかな」 「なんかこう、オーラでぶわーって綺麗に出来たらいいんですけどね」 「そういう能力にするか?」 「いやそれはちょっと」 くすくすと笑い合い、どっちが一階でどっちが二階にするかだとか、掃除はやっぱり上からしていくべきか、なんて他愛のない話をしつつ、玄関にあがる。 当面の間は、ここが私の家だ。そして、先輩の家でもある。 ……控えめに言ってやばいな、と今更ながらに赤面した。 ← → 戻 |