この世界に来てから一年ちょっと。もうとっくに慣れた感じで朝食のハンバーガーをかじっていた私の視線は、クロロへと向けられていた。
何人かが集まっている大部屋。その中心辺りで、クロロはさっきからじぃっと携帯の画面を見つめていた。何か新しいターゲットでも見つけたんだろうか。そう考えながら、ハンバーガーのピクルスを顰めっ面で飲み込む。

よし、と一人頷いたクロロが立ち上がったのは、ハンバーガーの包み紙を畳んでいた頃だった。
その場にいた全員の視線がクロロに向けられ、その口元を注視する。

「引越しするぞ」

何を言うのかと思えば、なんか今更過ぎる話だった。

私とタカト先輩がトリップしてきてから、前述の通り一年とちょっとが経過している。その間仮アジトから移動することはなく、私の部屋はもう完全にリフォーム済だ。無駄にDIY力が上がった。
なのに唐突の引越し宣言。めんどさしかない。

「どの辺りに行くの?」
「ヨルビアン大陸の北西だ。幾つか面白そうなものがある」

団員たちとタカト先輩がクロロの周囲に集まる中、私は引越しという事実にうちひしがれる。
いやだってどう考えてもめんどい。みんなは割と身一つだとか鞄一つだとかで移動出来る感じだけど、私の荷物は少なく見積もっても段ボール箱三つ分はある。
パクとコルトピが選んでくれた服は絶対に持っていきたいし、資料用の本だって捨てるわけにはいかない。クルタの民族衣装だって大事な思い出だ。他にも日用品に化粧品に……と持って行きたいものはいくつも浮かぶ。あと枕。枕も絶対持ってく。寝具専門店で一時間かけて完璧なものを選んだんだ。あれはマジで捨てられない。

そうこうしている内に話はまとまってしまったらしく、みんなはいそいそと準備をしに行ってしまった。絶望顔である。
梟の不思議で便利な大風呂敷があればなー、ここまでめんどくはないのになー。
せめてシズクのデメちゃんがいれば……と思ったけどあれは最後に吸い込んだものしか吐き出せないんだっけか……。

「よくわかんねえけど、とりあえず俺らも準備始めようぜ、ミズキ」
「先輩……うう、はい……」

タカト先輩に促され、渋々自分の部屋へと向かう。
まずあれらの荷物をまとめるって考えた時点でクソ鬱の極み。


 +++


なんだかんだで荷物をまとめるのはコルトピが手伝ってくれたため、結構あっさり済んだ。問題はこのダン箱四つをどう運ぶかだ。あまりにも目に付きすぎる。
飛行船でも盗ってくるのかなーっていうか飛行船って盗れるのかな。首をかしげていれば、外からクラクションの音が聞こえてくる。
まあ飛行船使うにしても、そこまではそりゃ車だわな、と開けた窓から見下ろして、思わず二度見した。

めっちゃ引越し用のトラックみたいなのが停まってる気がする。
三度見して、確認のために五度見くらいまでして、気がするじゃなくて事実だと認めた。なんたら引越センターってハンター文字で書かれてる。めちゃくちゃ引越し用トラック。確かに車よりかは便利だろうけども。

荷物を抱えてみんなのところに戻り、もう一度まじまじとトラックを見つめる。運転席にはフィンクスが座っていて、この人いつも運転役だなとぼんやり思った。若干の現実逃避だ。
みんなが続々と荷物をトラックに積み込んでいく様子を眺め、見つめ、やや時間をおいてから顔を覆う。

「幻影旅団が普通に引越ししてるのめっちゃやだ……!」
「なんかミズキって俺たちに変な夢見てるよね。普通に電車とかも使うよ」
「わかってるけど〜!」

すかさずシャルにツッコまれたけど、なんか嫌なのは嫌なのだ。黒塗りの車にだけ乗っててほしい。フィンクスとトラックがめちゃくちゃ似合ってるから余計になんかやだ。
だってこの人たちA級賞金首だよ!? それが何でこんな普通にトラックに荷物載せてんの!? そもそもシャルとかマチとかがダン箱持ってる時点でなんかやだ〜! ジェラルミンケースか高級ブランドバッグだけ持っててほしい〜!
我ながら意味不明のわがままで、実際に泣いてはいないけどウッウッと嗚咽を漏らす。トリップの弊害をこんなとこで感じる羽目になるとは思わなかった。
あまりにも日常風景過ぎる旅団が解釈違いの極み。ヨークシンで普ッ通〜に電車使ってんのも割と「ウワ……」ってなったし。あとあれは普通にめちゃくちゃ浮いてた。

「何を考えているかは知らないが、早く積まないと置いてくぞ」
「それはやだ……」

グス……と最後に鼻をすすってから、結局は大人しく荷物を積み込む。
あとはトラックと車で飛行場まで行って、そっからは飛行船でヨルビアン大陸へ、だ。

車の中、コルトピを挟んだ隣に座っているタカト先輩は、どことなく楽しそうにしているように見える。
そういえば近場の街には何度か行ってたけど、別の地域に向かうのは初めてか。飛行船に乗るのも人生初だ。

「ヨルビアン大陸、ってどんなとこなんだろうな」
「……そうですね。あんまり寒くないところだといいんですけど」

ヨークシンやNGLがあるのも、ヨルビアン大陸だったっけか。そう考えるとちょっとだけ楽しみだけど、実際はヨークシンとはほぼ正反対のとこが目的地らしいし、オークションの時期も過ぎてるし、あまり関係はないだろう。
なんにせよ、楽しみそうにしている先輩を見ていると、私もだんだんつられてきた。なにより楽しそうにしてる先輩がかわいい。好き。




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