一週間後。バルデロさんにつけてもらった義手を動かしてみながら、私は感嘆のため息を吐いていた。

「すっごいですバルデロさん! ほんとに私の腕みたい!」

肌の質感も動き方も、義手とは思えないほどの精度だ。動かしている私自身ですら、これは自分の腕だ、と思えるレベル。
念能力すげえ……奥が深い……。
喜んでいただけたのなら何よりです、と微笑むバルデロさんの念は、義手からはほとんど感じられない。周の要領で義手にもオーラを纏わせれば、それはもう完全に私の腕だった。

「水に浸かっても問題ありませんし、激しい運動をしても取れることはありません。耐熱・耐火性も備えています。ですが一年に一度は、わたくしに様子を見せに来てくださいね」
「はい。本当にありがとうございます!」

これで腕のことはとりあえず心配しなくてよさそうだ。あとでフェイタンかノブナガに手合わせ付き合ってもらって、戦闘での感覚も確かめておこう。
クロロにもお礼を言わなきゃな〜と、バルデロさんを見送ってからクロロの元に向かう。見つけたクロロを捕まえて、腕完璧! まじすごい! とややハイテンションに伝えれば、ようやくクロロはほっとしたように表情を緩めた。
私がこの時代に戻ってきてから、ずっと顰めっ面してたからなあ。クロロだけでなく、他のみんなも。特にシャル。
その表情がゆるめられたことに私も安堵し、軽く頭を下げた。

「ありがとう、クロロ」
「……ああ」

さ〜てお礼も言ったとこで手合わせだー、とフェイタンかノブナガを捜していれば、今度は私がシャルに捕まった。
気配でシャルがいるなとはわかっていたけど、まさかいきなりポンチョのフード部分を掴んでくるとは思わなかった。扱いが雑すぎないか。

「ぐえっ……どしたのシャル」
「義手、出来たんだね」

そのままずるずると屋上まで連行され、困惑しつつも頷いておく。もう心配はいらないことや、この義手マジですごいんだよーなんてことを言い連ねてはみたが、どうにもシャルは生返事だ。
ああ、うん、そうなんだ、へえ。そんな感じ。絶対話聞いてない。
まあ前述の通り、シャルもそれなりに責任を感じているんだろう。別に気にしなくていいことなんだけどなあ、クロロもシャルも。

そもそも私が左腕を失ったのは、私が実戦慣れしてなかったからなのだし。つまりは弱かった私の責任だ。戦闘考察力が足りてないんだな。

屋上に辿り着いたところで、シャルは適当なところに腰を下ろす。少し悩んでから私も隣に座って、ついでに煙草吸っていいかなあなんて考えた。
屋上に来るとほとんど条件反射で煙草吸いたくなる。

「……ごめん、ミズキ」

でも結構真面目な雰囲気だったので、私は煙草を取り出すなんてことはせず、シャルへ顔を向けた。

「あの雀牌は、敗者が最も執着してる時代・場所に飛ばすものなんだ。それでも期間はせいぜい数年以内程度。この世界に来て一年程度のタカトとミズキなら、過去に行ったとしても俺たちのところに来るだろう、ってそう思ってたんだ」

実際、旅団には会ってるんだが。

「でもミズキが二人いるなんて記憶、俺たちには浮かばなかった。ミズキは俺たちの知らないどこかに行って、左腕を失って、一ヶ月後に帰ってきた。そうなる可能性を予期しなかった、俺の責任だ。ミズキとタカトにやらせるべきじゃなかった」

ごめん、ともう一度告げられ、義手となった左腕にシャルが触れる。
触られている、という感覚はある。それでも人の温度は感じない。だからきっとシャルも、私の体温を感じていない。

――敗者が最も執着してる時代・場所、か。
私にとってはそれが、襲撃を受ける前のクルタ族だった。そんなこと、シャルに想定出来るはずもない。
だからこそ、シャルは私への疑いを強めているはずだ。私が無知であったのなら、この世界の過去に、執着なんて抱けるはずがないんだから。
ミズキはこの世界を知っている。今回のことでシャルが、そう確信してもおかしくはない。

それでもシャルは、そんな考えを微塵も滲ませず、ただ私を心配していた。己の行動を悔いていた。
今更否定する気もない。それはただひたすらに、シャルが私を気に入ってくれているからだ。
正直、シャル自身がどうこうではなく、こうやってキャラクターからほとんど無条件みたいに向けられる好意は、気持ちが悪いというかいたたまれないというか……複雑な感じなんだが。どうせこれも、トリップ特典なんだろうし。
だとしても、この心配してくれている気持ちに、嘘はないんだろうしなあ……。

「どう言えばシャルが楽になるかは、わかんないけど……私は気にしてないよ。だから、許す。タカト先輩じゃなかっただけマシだしね。それに、私が左腕をなくしちゃったのは、私が自分の強さを過信してたから。それは他の誰かの責任じゃない」

だから気にしないで。
苦笑混じりの笑みを浮かべて、右手でシャルの背中をぽんと叩く。そのまま手を離すことをしないで、背に触れ続けた。
右手であれば、体温は伝わる。

「気にするな、って言われてもなあ……。そもそも、ミズキの腕を落とすって、一体何と戦ったんだよ」
「知りたい?」
「割とね」

少しだけ変わった空気に、シャルの背中から手を離す。

「発案者のシャルさんには教えてあーげない」
「あ、さっきは気にしないでとか言ってたくせに!」




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