「いっ、てえ!」

また、木から落ちた。
何なんあの麻雀の念能力……何でわざわざ木から落とすん……? と若干の恨みを込めつつ、しこたま打ち付けた腰の痛みに震える。
今度受け身の取り方ちゃんと覚えよう、と決めたところで、頭上から「だ、大丈夫か……?」と驚き半分、心配半分の声が降ってきた。この声、は。

「タカト……せんぱ、い?」
「や、っぱり、ミズキだよな……?」

私も先輩も、目をまん丸に見開いて。
あ、戻ってきたのか私。元の時間に。改めてそう自覚して、ほっと息を吐いた、ら。

「ミズキ……っ!」
「うひゃ、わ、せん、へっ!?」

タカト先輩に、ぎゅうと抱きしめられた。完全に思考回路はショート寸前どころか大爆発だ。言語を発せなくなった口で、えっやっえっ、とひたすら謎の音を出し続けてしまう。
そんな私のパニックっぷりには気付かず、先輩は私を抱きしめたまま、深い安堵のため息を吐いた。

「お前、一ヶ月もいなくて、クロロたちもすげえ焦ってて……っ、だから、……よかった……!」
「い、一ヶ月も」

思わず冷静になる。私がクルタ族のとこにいたの、一週間ちょいなんだけど。何で時間の流れ違うのよ。

ゆっくりと身体を離した先輩は、無事を確かめるように、私を見つめる。
そのままふわりと微笑まれ、耳の辺りが熱くなった。

「おかえり、ミズキ」
「あ、た、ただいま……です」


 +++


現在に戻ってきて、みんなに一番驚かれたのは左腕のことだった。そりゃまあ二の腕から下が綺麗さっぱり無くなってたら、誰だってびびるだろう。先輩も気付いた瞬間にはめちゃくちゃ大慌てしていた。
着ていたクルタの民族衣装は、旅団員に見られる前にさっさと着替えてしまっておいたので、多分そっちは大丈夫だと思う。万一にもアレン=私だとはバレないようにしなくては。めんどそうだし。

「な〜んかいい感じの義手ないかなー、機械鎧みたいな」

パソコンで義手について調べるも、どうにもこういい感じのものは見つからない。出来れば日常生活にまったく不便のない、ついでにかっこいい感じのやつが欲しい。その点で言えば機械鎧はメンテナンスが必要なものだけど、それを補って余りあるかっこよさ……具現化すればいいのか……?
途中で片手でのタイピングしづらさに気が付き、携帯で調べるかとシャルに貰った携帯を手に取った時。軽いノックの音がして、部屋の扉が開かれた。返事を聞こうよ。

「どしたの、クロロ」

現われたのはクロロで、思いの外真剣な顔をしていることにやや驚きつつ、顔を上げる。
来いとだけ言われ、少し悩んでからイスを降りた。どうやら真面目な感じらしい。後を追いつつ、何の話だろう、と考える。
到着したのはクロロの部屋の隣室で、中では見たことのない初老の男性が、イスに座ってコーヒーを飲んでいた。の、のんびりしてらっしゃる。

「初めまして。義肢装具士のバルデロと申します」
「え、あ、どうも……」

義肢装具士……って、義手とかを作る人、ってことだろうか。混乱のままクロロを見上げれば、どうやらこの人はクロロが呼んでくれたらしい。
バルデロさんは念を込めた義肢を作る達人だとか。一つの以来に何十億もかかるのが普通だと聞いてしまえば、えええとしか言えなかった。そんなお金を誰が払うのだ。

「金のことなら気にするな」
「……クロロ?」

いや気にするだろ何十億だぞ、の顔で見上げたものの、その表情に思わず怪訝な声が出てしまう。
悔しそう、というか、申し訳なさそう?

「元はと言えば、俺の責任だ」

やんわりと私の左腕に触れるクロロと、ほんの数日前に相対したクロロとがどうにも一致しなくて、ほんの少しだけ笑ってしまいそうになる。
まあ確かに盗ってきたクロロと発案者のシャルが原因とは言えるし、あとは左腕をスパンと斬ってくれたノブナガ、こっちではまだ会ったことないけどその左腕を潰したフランクリンも原因の一つだしなあ、なんて軽く、冗談交じりに考えていたのだけど。
クロロが唇を噛んでいるのが、見えてしまったから。

「――……、」

私は、何も言えなくなってしまった。


クロロは、旅団のみんなは、クルタ襲撃の日を覚えているんだろうか。覚えていたとしたら、私のことをどう感じたんだろう。
きっとウボォーやノブナガ、フィンクスの辺りなんかは、絶対殺す! って感じだろう。他はいまいち想像つかない。フェイタンも殺す! 派かもしれない。一人だけダメージでかかったし。

私を――アレンを、敵として覚え続けていたら。そして、そのアレンが、ミズキだとわかってしまったら。
みんなはどうするんだろう。やっぱり私を、殺すんだろうか。
こんなにもやるせなさそうな顔をしているクロロも、あの日のように、私に殺気を向けるのかな。

そんなことを、考えてしまった。




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