オタクとしての性というか、厨二心くすぐるアイテムだから仕方ないというか、そんな感じの理由で私は一生に一回くらいは銃を扱ってみたいなあと思っていた。
とはいえ日本で暮らす以上、相応の職業にでも就かない限りそんな経験は出来ないだろうし、まあ可能性あるとしたらシューティングバーかサバゲーかな、と実銃を扱うことに関しては当然諦めていた。
でもこの世界でなら、割と普通に拳銃を扱える。
一通り武器を揃えてみたよ、なんてシャルに見せられた武器の山から拳銃を見つけた時は、ウワ……こわ……の気持ちと、ウワー本物の銃だー! の気持ちが入り混じって微妙な顔をしてしまった。初めて手にした実銃はずしりと重く、逆に現実感が伴わない。
それでもある程度眺めるだけで満足してしまったのは、この世界で拳銃の必要性をあまり感じなかったからだ。
だって念能力者には基本的に効かないし。念弾なら話はまた別だろうけど、自分が放出系得意そうか……? と考えると、どうにもその線は薄そうな気がする。

この世界のキャラたちが使っている武器で言うんなら、私のお気に入りはヒソカのトランプだ。ヒソカ自体は割と苦手だけど、ヒソカの戦闘スタイルは好き。
かつては、ハンター世界にトリップしたら私もああいう感じの武器にしたいな〜、とか考えていた。まあ実際に来ちゃった今となっては、ヒソカとおそろいとかマジ勘弁、なんだが。

武器の山を眺めながらの思考を終えたところで、ノブナガにひょいと木刀を投げ渡される。他の「どうやって使うんだこれは」としか言い様のない武器たちと比べれば、とても無難。
でも日本刀として考えるなら、西洋の剣の方がまだマシじゃねえのかなあ……と思ってしまう、そんな感じの武器。

「刀、ねえ」
「俺が教えられる武器っつったら、コレくらいのもんだからな」
「なーる……」

納得しつつ見上げれば、ノブナガの手にも木刀が握られている。
ノブナガがガチで戦ってるとこはあんまり見たことないけど、それでも刀剣の扱いは相当なものだろう。居合い斬りが得意っぽい感じだったっけか。
それに比べて、私はまったくのド素人だ。刀をただ振り回すだけじゃ返って隙を増やすことになりそうだし、やっぱり難易度高い気がする。

「ま、ものは試しだよ。合わなかったら他の武器も試してみればいいし、念を覚えたら武器なんていらないかもだしね」
「確かに、ミズキは強化系っぽそうだ」
「強化系っぽいって言われるのはなんか複雑」

そんな直情馬鹿に見えるのか私。

どうやらノブナガは完全な実戦経験派らしく、刀の振り方というか構え方というか、その辺りをまったく教えてくれない。せめて握り方くらいは教えてほしいもんだ。右手と左手どっちを上にすればいいの。
曰く、見て覚えろ、目で盗め、とのことらしく。盗賊団様はさすが無茶ぶりがえげつない。
対してシャルはデータ派、かと思いきやこちらも割と「まずはやってみよう」派である。変な癖とかついちゃったらどうすんだと言えば、「その時は俺たちが修正してあげるから」と満面の笑みである。怖かった。

見よう見まねでノブナガと手合わせをし、隙の大きい動きなんかを逐一シャルに注意されながら、都度修正していく。
合間合間に「必要はないと思うけど、やってて損はないから」というシャルの言葉で、筋トレやらも挟みつつ。
別の日には仮アジトにいる全員で鬼ごっこをしたり、ひたすら攻撃を避け続けたり、今度はノブナガと真剣でやり合ったり。

そんな感じの修行が、一週間ほど続いた。

「なあシャル。あいつ……ミズキ、このまま念まで覚えちまったら、俺たちすげえ化け物を作ったことになるんじゃねえか?」
「……わからなくはないけど」

私に、そしてきっとタカト先輩にも与えられたトリップ特典は、異常を遙かに越えていた。シャルの攻撃はかすりもせず、ノブナガとの真剣勝負も、あっけなく勝ててしまえる程のもの。
さすがに我ながら引くのだけど、それでも戦術面では大幅な差があるのだから、実戦ではこうはいかないだろう。それがわかっていても、やっぱり引く。

なにはともあれ、明日からは念能力の修行開始だ。
もう否定する気も起きない「化け物」の言葉に、自分の手をぎゅうと握りしめた。


 +++


念能力の習得に移る、という自称総監督クロロの言葉に対し、案の定念とはなんぞやと首をかしげる先輩への説明会を経て。
私と先輩はそれぞれ羽織っていたポンチョとパーカーを脱ぎ、クロロに背を向けていた。当然のように、精孔は無理矢理こじ開けるコースである。
正〜直めっちゃくちゃ怖いんだが、こればっかりはもうクロロを信用するしかない。今ばかりはあの私を娘だとか言ってた言葉を信じるぞ。頼むから娘を殺してくれるなよ。

私とタカト先輩の背中へとかざされている手からは、じんわりとした何かを感じる。嫌な感じはしない。だから大丈夫。
まだ何が何やら、といった様子で不安そうにしている先輩に、まるで自分に言い聞かせるみたいに「大丈夫ですよ」と笑みを向け、今度こそ覚悟を決めた。

「――お願いします!」

私と先輩の声が重なる。同時にクロロが念を放ち、見えない手に力強く押されたような感覚の直後、無事とでも言えばいいのか、私たちの精孔はこじ開けられた。
全身から湯気のようなものが激しく溢れだしていく様を、半ば夢うつつのように眺める。ほんの少しだけ温かい。これがオーラかあ、なんて、私は自分の手を見つめていた。

「は、っえ? なんだこれ、すげ……っ」
「それがオーラ、生命エネルギーだ。まずは身体の周りに留めてみろ」

混乱と興奮が混ざったような先輩の言葉に、クロロは淡々と告げる。
もうちょいこう、詳しく説明してくれてもいいんじゃなかろうか。私ら、特にタカト先輩なんてド初心者やぞ。クロロにそれを求めるのが間違いなのかもしれないけど、もうちょっとでいいからウイングさんを見習ってほしい。

とりあえずは目を閉じて、自然体をとりオーラを身体に留めようと念じる。血液のように、頭のてっぺんから右肩、手、足、そして左側。ウイングさんの言葉を、文字を思い出しながら、そうっと目を開く。
ついぎょっとしてしまったのは、私よりも早く、先輩が纏を行えていたからだ。え……これが才能の差……? とおののきつつ、首を振って自分の状態に意識を集中させる。

ゴンとキルアの言っていた「ぬるい粘液の中にいるみたい」「重さのない服を着ているみたい」という言葉が、よくわかる。溢れ出ていたオーラを身体に留め、纏っている状態。
これが、纏。

「これで纏とか、うわ……」

感嘆のため息を吐いたかと思いきや引き気味の声をあげるシャルに、何て言えばいいかわからずへらりと笑う。
まだスタートラインに立ったばかりとはいえ、念を使えるようになった今なら、より解る。

ここにいる誰もが、とても強い。もしも敵としてまみえたのなら、今の私じゃあ勝てないだろう。そう実感出来るくらいに、幻影旅団は強い。
でも、ノブナガに何度も言われて、ヒソカにも言われたこと。過信とかではなく、今のみんなの反応を見て、こちらもやっぱり実感する。
私とタカト先輩だって、強い。それも異常を遙かに超えて、化け物と言われても仕方がないほどに。
……いったい、何のための力なんだか。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -