ふと、そういえば今は原作で言うとどのくらいの時期なのだろう、と考える。
パクとウボォーが生きているから、ヨークシン編は始まってない。んで、ヒソカが既に入団しているから、少なくともクルタ襲撃からは二年くらい経っているはずだ。
今が原作のいつ頃なのかをすぐにわかる方法ってないかなあ。シャルたちに「クルタ襲撃した? したならいつ?」なあんて訊けるはずもないし。

「……ヒソカに訊くか」

ヒソカがハンター試験を受けたことがないなら、原作から二年は前。一度受けたことがあるのなら一年くらい前、ってことになる、はず。多分。
シャルにもらった携帯をいじり、「ハンター試験受けたことある?」とだけ書いたメールを送る。ちなみにヒソカのアドレスはマチ経由で教えてもらった。一応ね、知ってて損はないからね。
まああれでヒソカも忙しいかもしんないし、すぐに返事はこないだろうと携帯をしまう。はずが、すぐに着信音が鳴った。しかも電話の。

『やあミズキ、久しぶり』
「……久しぶり」

レスポンス早すぎだろとかメールにはメールで返してくれよとか、言いたいことは色々あったけど、言うだけ無駄なのがわかりきっているので口を噤む。
今重要なのはヒソカがハンター試験を受けたか否か、なのだし。

「で、ハンター試験。受けたことある?」
『まだないよ。その内受けてみようとは思ってるんだけどね』
「そ、ありがと」
『もしかしてミズキも受けるのかい? ならボクと一緒に、』
「用件そんだけだから。じゃ」

ブツッ、とろくにヒソカの言葉も聞かずにさっさと通話を切る。だってヒソカの話長そうだし、タイミング計ってたら切らせてくれそうにないし。
来るかとは思ったけど案の定来たヒソカからの着信はすまんなと思いつつスルーして、なるほどなあ、と脳内で思案する。

多分、だいたい原作二年前ってとこだろう。ヒソカが入団してから一度目のハンター試験を受けるまでの期間が、だいたいそんくらいだったはずだ。
原作が始まるまでは、あと二年か一年半そこら。ううん、と考え込みながら、うなり声をあげる。

ハンター試験、やっぱり受けたい。ライセンスが欲しいのは勿論だけど、ゴンたちを間近で一目見たい。……クラピカにも。
トリップしてきたのが、五年くらい前だったのなら。そしたら、クルタ襲撃を防げたかもしれないのに。
クラピカの復讐をやめさせることなんて、私には出来ない。そんな権利、私にはない。それでも、私は幻影旅団のみんなを死なせたくない。
パクとウボォーの死を、今の私が受け入れられるはずがない。

……なんにせよ、とにかくは力をつけるのが先決、か。

「ねえ、クロロ」

思考しながら廃墟内を進み、辿り着いた場所。クロロの部屋の扉を開けながら、声をかける。
部屋の中で本に囲まれていたその人は、私の表情を見てほんの少し、顔を顰めた。

「ちょっと、修行つけてもらいたいんだけど」


 +++


私とタカト先輩の正面に立つのは、クロロ、シャル、フィンクス、フェイタン、そして最近仮アジトにやってきたノブナガの五人である。
そういえば最近女性陣見ないなあ、ていうかフェイタン、あまり長くいられないみたいなこと言ってた気がするけど、結構長くここにいるよなあ、なんて関係ないことを、修行について話すクロロの声をBGMに考える。

「ハンター試験を受けたい、とミズキに言われた。そのためにミズキとタカトには、基礎体力向上から念能力習得までの修行を受けてもらう」
「クロロ、質問いい?」
「何だ? タカト」
「ハンター試験ってなに」

改めて、先輩マジでハンター読んだことないんだな……とちょっぴり悲しくなる。あんな名作なのに。

クロロがハンター試験についてタカト先輩に説明している間、私は暇になる。サイドでひとつにまとめている髪を指先でいじりながら聞き流していると、シャルがこちらに寄ってきた。
何でいきなりハンター試験を受けようなんて思ったの? と問いかけられ、髪の毛から手を離す。

「ちょっと、やりたいことがあってね」
「ふうん? やりたいことにハンター証が必要だってわかるくらいには、この世界に詳しいんだね」
「……今のご時世、ネットがあれば何でも知れるからね」

笑って誤魔化せば、誤魔化されたふりをしてくれるのだからシャルは優しい。
一通り説明し終えたらしいクロロと、わかったっちゃあわかったけどわからないっちゃあわからない、みたいな顔をしている先輩を見やって、少しだけ苦笑してからクロロに向き直った。

「タカトはフェイタンとフィンクスが、ミズキはシャルとノブナガが見る。ある程度の基礎ができ次第、戦闘スタイルも含めて色々教えてもらえ」
「あれ、団長は何すんの?」
「俺は総監督だ」

ふんぞり返るクロロはどことなく楽しげで、このハゲに頼んだのは失敗だったかもしれない、と心の底でちょこっと思ってしまった。

場所を移動し、シャルとノブナガとの三人でまず何をするか話し合う。
ノブナガは割とシャルに丸投げで、私もパッと浮かぶのはビスケの念能力修行ばかりなので、やっぱりシャルに丸投げだ。頼むぜシャル先生。

「団長は基礎体力をどうのこうの言ってたけど、ミズキはヒソカと追いかけっこしても疲れないくらいなんだし、戦い方からでいいんじゃない?」
「んじゃ組手でもするか」

私空手とか柔道とかの類、マジでまったく経験ないんですけど。
そう言ってみても、適当に構えて反応だけしてみろ、と言われれば従うしかない。諦めてなんとなあくそれっぽい構えをとり、ノブナガと向かい合う。
ふうんとめちゃくちゃ微妙な反応をされた。ダメならダメだった言ってくれよ頼むから。

「じゃ、いくぜ」
「お……お願いします」

ノブナガ自身に肉弾戦の印象はまったくなかったんだが、向けられる拳は速くて重かった。でも、私の身体は予想以上に軽く、速く、動く。今更ながらにトリップ特典の恐ろしさを実感した。自分の身体じゃないみたいだ。
確かにノブナガの拳も蹴りも、速い。本気じゃないにしても、初心者相手にそこまでする? ってくらいだ。だけど、目で追える。反応が出来る。避けるだけでなく、受け流すことすら出来た。

「ミズキって、本当に格闘技の経験、ないんだよね?」
「うん、まったく」

ある程度の時間が経ったところで、シャルがストップを入れる。あまりにも私に攻撃が当たらないもんだから、途中からノブナガがちょっと本気になりかけてたのが理由だろう。
トリップ特典ぱねぇ〜……と思いながら自分の両手を見つめる私に、ノブナガが軽い舌打ちをする。

「それであの反応かよ。バケモンだな」
「女子に向かってその言いぐさ」

私の基礎体力、動体視力、反応速度諸々、それらはもう今すぐ鍛える必要はないくらいのレベルだったらしい。ううんチート。
鍛える、もしくは学ぶ必要があるとすれば、戦術についてや武器の使い方、あとは無駄な動きが多いからその辺りの修正だろう、とシャルがまとめる。

「ミズキには圧倒的に経験が足りないから、組手をメインに戦術や色んな武器の使い方を学びつつ、隙をなくす動きを身に付ける方向でいこう。……それすらも、一週間かかんなそうだけど」

苦笑気味に付け加えたシャルに、思わずそっと目を逸らしてしまった。
いや……いやいや……どんだけチートでもさすがにもうちょいかかるでしょ。た、多分。




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