※シャル視点 相変わらず団長は、ミズキの反応が面白いからか、それとも他に何か理由があるからか、ミズキに無駄な雑用をしょっちゅう押し付けている。タカトには特にさせていないのに。 俺と団長、フィンクス、タカトが眺める中、ミズキは何のためなのかわからない薪割りをしていた。薪なんて使うこともないし、雑用をさせるための雑用、なんだろう。 ややむくれっ面で薪割りをするミズキの隣には、意外にもフェイタンの姿。フェイタンが薪を立てて、ミズキが斧で割る。まあまあなコンビネーションだと思う。 ミズキが薪割りをする、と聞いてまずタカトが手伝おうと立ち上がり、俺とフィンクスはそれに着いてきた形なんだが、その頃には既にこの状況だった。 なにかしらの言葉を交わしながら作業をしているミズキとフェイタンは、随分と仲が良さそうに見える。 ミズキとタカトに会ったのは、俺が一番最初だ。ミズキの言葉を聞いて、これは今殺さない方がいいな、と思ったから仮アジトまで連れてきた。つまり今ミズキが生きているのは俺のおかげと言っていいくらいのものだと思うんだけど、どうにもミズキが俺に懐く気配はない。 やはり同性だからかシズクやパク、マチなんかとは仲良さげに話していたし、ヒソカともあれはあれで打ち解けてはいたんだろうと思う。次いで、昨日来たばかりのフェイタンと、これだ。 ミズキ自ら俺に声をかけてくるのなんて、パソコンの使い方がわからないだとか、そういう時くらいのもんで。それすらも最近じゃ一人で解決出来るようになったらしく、ここのところはまったく訊きに来ない。 来たばかりの頃、煙草買っといてあげるようフィンクスに伝えたの、俺なんだけどなあ。それも後でありがとう、って言われただけだし。別になんか期待してたわけじゃないけどさ。 ……って、何で俺、こんなうじうじ考えてんだろ。自分が微妙に苛ついてるのもわかるけど、いやいやまさかね、なんて胸の内で自嘲。 俺が、ミズキを好きみたい、だとか。 「どうした、シャル。ぼうっとして」 「ん? 何でもないよ」 そんなにもぼんやりしていたんだろうか。訝しげな視線を団長に向けられ、空笑いで答える。俺らしくもない。 いやでも、俺がミズキのことを、か。 ……まあミズキも別に可愛くないわけじゃなし、見てて面白いところもあるし、嫌いじゃないのは確かだけど。情愛や性愛の対象っていうよりは、こう、妹みたいな感覚の方が近いんじゃないかな。うん、そうそう。年の差も結構あるし。 まるで自分に言い訳してるみたいだ、と頭の片隅で思う。同時に、フェイタンと笑い合っている――正確には笑ってるのはミズキだけだけど――ミズキを見て、どこかイライラとしている自分もいる。 意味がわからない。わかろうと思えばわかることだけど、なんだか妙に認めたくない。 「……ミズキー」 「ん、……うわ、なに四人してそんなとこで日向ぼっこしてるんですか」 なんとなく、名前を呼んでみる。ミズキが珍しく敬語で答えるのは、こっちにタカトがいるからだろう。最初の頃は俺たちにも敬語を使っていたような気がするけれど、ミズキは基本的にタカトにしか敬語を使わない。 今となっては、フェイタンにも敬語を使うようになったけれど。どういう分け方をしてるんだか。 団長やタカトが適当にミズキと会話しているのをいいことに、俺は無言でミズキを観察する。そうして、あからさまにタカトにだけ対応が違うことを、改めて再認識した。 そういえば、ミズキはタカトのことが好きなんだったっけ。本人は隠しているようだし、タカトも気付いてはいないようだけど、周りにはバレバレだ。 でも、とタカトを見下げる。多少童顔だけど、整っている方ではあるだろう。背はあまり高くない。どう見ても、タカトよりは俺の方がかっこいいし背も高い。金もある。それに、ミズキくらいの年の子って年上に惹かれるもんだし、一個上のタカトよりは俺の方が。 ――って、こんなの、もう答えは出てるようなもんか。はあ、認めたくないんだけどなあ。 少なくとも、ミズキに懐かれていない現状が癪なのは事実だ。 フィンクス相手には一定の距離を取ってるようだし、団長には口を開けば「ハゲ」「うざい」と辛辣なことばかり言ってるくらいだから、あの二人よりはマシだろうけど。 どうすれば俺にも懐いてくれるんだろう。そういえば前、タカトに携帯を買ってあげた時にはミズキを置いていってしまってたし、ミズキにも携帯をあげればいいかもしれない。いっそ俺が作るのもありか。俺にしか説明も、修理も出来ないようなやつを。 だんまりの俺に、何か用があったんじゃないのかとミズキはこっちを見つめている。きょとんとした様子は、あまりにも無防備だ。 ある程度の距離がある俺ですら、簡単に殺してしまえそうなほど。そう感じる反面、難しいだろうとも思う。 今はまだ念を覚えてないけれど、ミズキの潜在能力は異常な程だ。もちろん同じ境遇である、タカトのものも。単純な腕力勝負なら、俺はあの細腕に負けてしまうだろう。試さなくてもわかる程度に、ミズキたちは強い。念を覚えてしまえば、きっと、もっと強くなる。 どれだけ無防備でも、彼女を殺すのは骨が折れそうだ。殺す理由なんて今のとこないんだけど。 それでもやっぱり無防備に思える姿を見つめ直してから、おいでおいでと手を振る。ミズキは小さく首をかしげてから、フェイタンに一言断って俺の元まで小走りに向かってきた。 その無防備っぷりに愛しさを感じて、あ、これもうだめだな、と内心諦めを抱く。どう考えても俺の好みじゃないのに、欲しいと思った。この子の気持ちが欲しい。 今はタカトに向けられている、その気持ちが。 「シャル? 何か用、」 目の前まで来たミズキの腕を引き、ちゅ、と触れるだけの口づけをする。 半分気まぐれの行動。でも、まずは押してみないとね。 「これだけ。んじゃ、薪割りがんばって」 「え、お、おう……」 顔を赤らめることもなく、かといってヒソカに追いかけ回されていた時のように怒ることもない。ううん、良好な反応とは言いがたい。けど、嫌われてないだけマシか。 何が起こったのかわかってないだけの気もするし、完全に恋愛対象外って言われたような気もする。 でも、これからどうなるかはわかんないよね? ミズキ。 ← → 戻 |