※シャル視点 「ああ見てるとあれだな、鳥の親子みてえだ」 大部屋で、ミズキにとっては不本意だろう追いかけっこをしているミズキとヒソカを眺めながらフィンクスが呟く。確かにミズキの後をずっと追うヒソカの姿は、雛鳥に例えられなくもないけど。いくらなんでもそれはないだろう。 苦笑のみを返し、ミズキも可哀相に、と肩を竦める。団長の例えといい、どうあがいても彼女は親鳥扱いのようだ。 となると、ヒソカとタカトがうっかり兄弟扱いになるんだけど、とタカトへ視線を向ける。カチカチと携帯をいじっていたタカトは、フィンクスの言葉に対し、思いの外低い声でぼそりと呟いた。 「どっちかっつーと別れた女に縋る元彼だろ」 「こええぞタカト……」 ミズキ以上に穏やかな印象があったタカトの無表情っぷりに、フィンクスがぼやく。 当人たちはただの先輩後輩関係だって言っていたけど、ミズキとタカトはそれよりも深い関係のように俺は思える。二人きりで異世界に来てしまった、って状況の所為だろうか。 というかまあ、ミズキは確実にタカトのことが好きだろうから、少なくとも一方的には「ただの先輩後輩関係」なんかじゃないんだろう。それでも、タカトだって随分とミズキに肩入れしているように見える。 自覚してるのか、無自覚かは知らない。 「っだあもうマジでいい加減にしろクソピエロ! その顔で追いかけられんの気持ち悪いんだよ!!」 「お、とうとうキレたかな」 姿は見えなくなっていたが、ミズキの怒声が上の階の方から響いてくる。やっぱり可哀相に、とけらけら笑っていれば、崩れた天井の隙間から降りてきたミズキに「笑ってないでコレどうにかしてよシャル!」と涙目で訴えられた。 助けてあげたい気持ちはあるけど、俺もヒソカにはあんまり関わりたくないのでパス。そういうのはミズキに懐いているらしいコルトピの仕事だろう、とコルトピを見やれば、今まさに立ち上がろうとしていた。 が、一歩早くヒソカがミズキを捕まえる。 捕まえた、と満面の笑みを貼り付けるヒソカに対して、ミズキは絶望の表情だ。 にしても、団長でさえ一目置くくらいのヒソカからあんな長時間逃げ続けるなんて、本当にミズキはいったい何なんだろう。今だって、ヒソカが念を使わなければ逃げられたはずだ。 あれだけ走り回っていたのに呼吸も乱れてないし。メンタルはだいぶ疲弊してそうだけど。 異世界の人間ってみんなああなんだろうか。だとしたら、念能力がまったく使えないにしても怖いなと思う。 「その! キモイ表情で! 顔を近づけんな!」 「ミズキは冷たいなあ」 「てめえのやったことを思い出せ! 私だっていらんことされんかったらここまでキレねーわ!」 「一緒にシャワーを浴びようとしただけじゃないか」 「ンなこた別にいいんだよ! 勝手に人の下着物色してキョウハコレガイインジャナイカナーとか気色悪い笑顔で言ってきたろーが!」 前から思ってたけど、ミズキってキレたら男みたいな口調になるよね。男兄弟が多いのかな、後で本人に訊いてみよ。 関係ないことを考えていれば、一旦は立ち止まったコルトピが、般若さながらのオーラを纏ってヒソカとミズキの元へ飛び出していった。俺まで怖くなるレベルのオーラだ。 でも団員同士のマジギレは禁止だし、止めるべきかな、と俺も立ち上がりかける。マチが今いない以上、他に止めようとする奴もいないだろうし。 そう思っていたんだが、意外や意外、コルトピが辿り着くよりも早く、ミズキがヒソカを綺麗な背負い投げで地面に叩きつけた。おお、十点満点。 咄嗟に念でガードしたにしても多少は痛いだろうに、ヒソカは変わらず満面の笑みなところが気持ち悪い。 「ミズキ、ぼくの後ろに隠れて」 「ウッ……ありがとうコルトピ……優しさが身に染みる……」 戦闘員じゃないのに助けようとしてくれるその気持ちが嬉しい、フィンクスなんて完全に我関せずなのに、とぼやきながらミズキはコルトピの頭を撫でる。フィンクスは目を逸らしていた。 一応俺も二人の側まで行き、起き上がったヒソカに無駄だとわかっていても声をかける。 「さすがに下着を漁るなんてのはアウトでしょ。A級賞金首の幻影旅団が下着泥棒なんて、冗談にもなんないし」 「ボクは選んであげただけだよ」 「だとしてもアウトだろ。勿論、一緒にシャワーを浴びようとするのも。ミズキが可哀相だ」 「シャル優しい……って思ってたけどなんか憐れまれてるだけな気もする」 実際、だいぶ憐れんでいる。 「ミズキも、いざとなったら逃げるんじゃなくて反撃しなよ。今のミズキでも足止めくらいは出来るだろ?」 「でも先生、反撃したら喜ぶんですこいつ」 「俺は先生じゃない。本当にどうしようもなくなったら、俺が助けてあげるから」 「シャル先生……!」 「だから先生じゃない」 何で子供のケンカを仲裁してるみたくなってんだ。ミズキはまだしも、ヒソカなんて下手すりゃ俺より年上だろ。 会話の最中で萎えでもしたのか、ヒソカは今日のところはこれで終わりにしとくよ、とひらひら手を振って去って行った。ミズキが全力で安堵のため息を吐く。 ヒソカはマチのことも気に入ってるみたいだけど、ミズキよりはマチの方がちゃんと対処出来るだろうし、夜はマチの部屋ででも一緒に寝させた方がいいかもしれない。 ミズキのシャワーは別にいい、みたいな反応を見る限り、いつ既成事実を作られてもおかしくなさそうだし。その辺りどうにも緩い気がするんだよなあ、ミズキって。俺やコルトピにもすぐ好き好き言うし、ヒソカの顔自体は割と好きっぽいし。 タカトにはそんなこと、言えないくせにね。やっぱり可哀相な子だ。 ← → 戻 |